頼れる男が戻ってきた。楽天の枡田慎太郎外野手(28)が8回に勝ち越しの適時打を放ち、チームの3連勝を呼び込んだ。右手有鉤(ゆうこう)骨の骨折で5月に戦線離脱して、この日に1軍登録されたばかり。いきなりのスタメン起用に応えて2安打1打点と結果を出し、お立ち台で会心の笑みを浮かべた。

 腹をくくった。4-4の同点で迎えた8回1死一、三塁の絶好機。枡田は、フルカウントから西武増田の真ん中直球に反応した。「空振りか、ヒット。どちらかでいい」と決心したひと振りが、吉と出た。強いゴロは、一、二塁間を抜ける。勝ち越しの5点目を奪った瞬間「最高です!」とベンチに向かって右手を突き上げた。

 5月31日の巨人戦でファウルを打った際に右手有鉤(ゆうこう)骨を骨折し、約2カ月間戦列から離れていた。ファームでの地道なリハビリを経て、この日に1軍再登録されたばかり。それでも大久保監督は「7番・DH」という席を用意してくれた。試合前から「やるしかない。とにかく全力でいきます」と並大抵の決意ではなかった。

 決勝打は12球目だった。ファウル6球を重ね、フルカウントから直球を狙い打った技ありの一撃だ。10球目ではバットが折れて、グリップにテーピングのない替えの1本を手に取った。感触が変わった実感はあったが「何とか前に飛ばしたい気持ちだった」と執念が上回った。

 「僕には特別な能力はありませんから」と謙遜するが、大久保監督はその打撃に厚い信頼を置いている。5月の骨折直後から、復帰後の活躍を信じていた。

 大久保監督 慎太郎はきっと鉄人になって戻ってくる。去年からずっと右手首に痛みを抱えていた。だから手術でそれを取り除いた時に、どれだけ活躍してくれるか楽しみで仕方ない。バットコントロールは天才的。チームが苦しい時期に復帰して助けてくれるはず。

 言葉どおり、最も打ってほしい場面で結果を出した。枡田は「まだ残りの試合があるので、チーム一丸となってクライマックスシリーズに行けるよう頑張ります」と胸を張る。帰ってきたバットマンが、その起爆剤となる。【松本岳志】