恐怖の6番打者が、侍ジャパンを連勝に導いた。中田翔内野手(26)が、同点に追いつかれた直後の9回1死一、二塁から右中間にサヨナラ打を放った。1点を先制された直後の2回裏には左翼スタンドへ豪快な逆転2ラン。3回にも犠飛、5回にも適時打を放つなど5打点の活躍を見せた。4番から6番に下がった中田が本来の打撃を取り戻し、急造チームのメキシコに辛勝した。

 鋭いライナーが右中間を抜けていった。9回、1死一、二塁から中田がサヨナラ安打。駆け寄るナインの姿を見ると両手を少し広げ笑顔になった。「正直、敬遠で一気に気合が入りました」。メキシコは1死二塁から、この日3安打の筒香を敬遠して中田との勝負を選んだ。中田の心に火がついた。いきなり初球を左翼へ大ファウル。フルカウント後、外角スライダーをとらえた。9回2死から抑えの沢村が同点を許した。延長10回からはタイブレークに突入する。チームの危機を救う一打だった。

 5打点の中田が主役だった。エース前田が被弾し1点先制された直後の2回1死一塁。低めの球に少し泳がされながらも、パワーで左翼へ逆転2ラン。昨年の日米野球では1本塁打をマークしているが、国際大会では自身初アーチとなった。3回に中犠飛、5回は中前適時打を放った。

 小久保監督の就任以来、4番を任され続けてきたが、今回は国際大会初招集の中村剛が指名された。中田は6番になった。小久保監督は「国際大会になると少し気負いすぎるところがあるのかもしれない」と説明していた。中田は「正直、楽な気持ちはある。それ以上に前も後もすごい打者がたくさんいるので楽になっている」。4番を外れて力みが取れたのか、初戦の韓国戦でも2安打。開幕前、小久保監督がナインに「オレ様がという気持ちでやろう」と伝えていたが、まさに地でいく姿だった。

 2年前、13年WBCでの経験が生きている。当時23歳で野手最年少だった。未知の世界に恐怖心もあったが「そんなにびっくりする部分はなかったね、正直。(手が出なかった投手とかも)いなかった」と振り返る。体格以外には驚かなかったという。

 台湾での初戦、侍への大声援に驚いた。「心強い。ホームみたい。まだこれから。気持ちを緩めずに勝ちたい」。不動の6番として世界一へけん引していく。【石橋隆雄】

 ▼日本は中田の右前打でサヨナラ勝ち。WBC、五輪、プレミア12で日本のサヨナラ勝ちは、04年8月21日、アテネ五輪1次リーグで台湾を4-3で下して以来11年ぶり。この時は延長10回1死満塁から小笠原(日本ハム)が左犠飛を放った。五輪では3度のサヨナラ勝ちがあるが、WBCでは1度もない。

 ▼中田が2回に逆転2ラン、3回に犠飛、5回に適時打、9回にサヨナラ打で1試合5打点。WBC、プロが参加した五輪、プレミア12で日本選手の5打点は、06年WBC1次リーグ中国戦の西岡(ロッテ)と13年WBC2次ラウンド1、2位決定戦オランダ戦の長野(巨人)に次いで3人目の最多タイ記録。