ソフトバンク工藤公康監督(52)が6日、来訪した野茂英雄氏(47)に1日限定の「臨時コーチ」を要請した。現役時代から親交のある野茂氏は快諾、寺原や巽にアドバイスを送った。「あれだけの投手に、そうそう話は聞けないよ」と指揮官はご満悦。伝説のトルネードが投手王国の形成にひと役買った。

 工藤監督が投手王国の形成にサプライズを用意した。キャンプ地を訪れた野茂氏とネット裏で談笑し、自ら切り出した。「B組のブルペンで投げているので、うちのピッチャーに教えてあげてよ」。1日限定の「臨時コーチ」の要請だった。野茂氏は快諾し、並んでブルペンまで歩いた。指導したのは2人の右腕。寺原に声をかけ、巽には熱心にアドバイスを送った。

 トルネードという独特の投球フォームで日米の野球界にその名を残した。指導は理にかなって、分かりやすかったという。巽はテークバックの際に、ボールを持つ右手がお尻の後ろに回り込む癖があった。リリースまで遠回りになり、無駄な動作だ。野茂氏は修正法をシンプルに伝えた。「グラブの位置を変えるように…」。始動時に顔の正面でグラブを構えていたが、それを捕手寄りにずらすように指示。そうすると、右腕をスムーズに振り下ろせるようになった。寺原も「ちょっとした体の使い方を教わった。試してみたい」とうれしそうに振り返った。

 工藤監督は野茂氏と現役時代から親交があった。99年オフにダイエーから巨人にFA移籍。その過程であらぬ誤解を受けることがあった。野茂氏との会話で救われたという。この日は投手陣のために、頭を下げて、指導を求めた。「視点が変わると、考え方も違う。勉強になると思うよ。日本でもメジャーでもやった人間。あれだけの投手に、そうそう話は聞けない」。

 この日はブルペンに入る投手が少なかったのが残念だが、2人の右腕はラッキーだった。巽は興奮気味に言った。「パイオニアなので、尊敬しています。メジャー時代のプレーもテレビで見ていましたし、うれしかったですね」。野茂氏は取材に応じることなく球場を後にしたが、投手力向上にひと役買った。【田口真一郎】

 ◆野茂氏の指導 08年7月に現役引退表明後、11月にオリックスの秋季キャンプ(高知)に臨時コーチとして招かれた。近鉄時代にともにプレーした大石監督の要請を受け、選手にフォークボールの極意を伝授。夜は投球術などを講演した。09年2月にはオリックスのテクニカル・アドバイザーに就任。シーズン序盤は数試合に同行して金子らに助言を繰り返した。10年からはソウル五輪代表の同僚だった広島野村監督の依頼を受け、2年連続で春季キャンプ中の数日間、指導にあたった。