広島に25年ぶりの優勝マジック「20」が点灯した。6回に5安打を集中させ、巨人のエース菅野から一挙4得点で逆転。緒方孝市監督(47)が期待し続けた安部、田中、菊池、丸と菅野と同学年の4人が、ここぞで打った。前日23日に硬さが見られた打線が、この日は本領を発揮した。緒方監督は「いらん情報」とマジックの話題を一蹴したが、確かなカウントダウンが始まった。

 ベンチの隅で腕を組んだ緒方監督は、静かに勝機を探っていた。先発福井が4回に2失点。巨人のエース菅野は初回からフルスロットルで来ていた。流れは巨人だった。だが「自分のスイングをする姿がみえた。強い打球を打ち返してくれていた」と感じていた。5回の安部の1発を皮切りに、6回、球威が落ちてきた菅野を一気につかまえた。

 打線のテーマは「次の打者に勇気を与える」。この日は4回まで菅野の前に2安打無得点、8三振を喫した。ただ2回の安部が6球、3回の会沢は7球、田中も6球と三振でも粘って勇気をつなぐ。松山の2度を含め走者のスタートも菅野のエネルギーを少しずつ奪った。そして浴びせた8安打のうち6安打が146キロ以上の直球系。狙い球を絞り込み、攻略につなげた。

 流れを俯瞰(ふかん)していた。指揮官は記者席を指さして言う。「極端に言えば、あそこから見ている」。今季ベンチの隅での表情は変わらない。極端に熱くなる場面は少ない。「劇的なものは別。でも指揮を執る人間が、1プレーで感情を揺らされても仕方ない」。信頼を寄せる「日本一のコーチ陣」がいる。目指す野球も形になってきた。高ヘッドコーチとスコアラーを両隣に置き、見守る。

 起用もはまった。「菊池にも負けないものがある」と期待してきた安部が口火を切るソロ。就任直後にリーダーに指名したキクマルが勝ち越した6回をつなぎ、8回にも連続ソロで試合を決めた。今季は1、2軍の入れ替えを盛んに行う一方で、同点適時二塁打の田中を含め1、2、3番はアクシデントを除いて固定。期待と「いつもと同じ」バランスが流れを呼んだ。

 今季を象徴する両リーグ最多37度目の逆転勝利で、リーグ最速の70勝に到達。25年ぶりのマジック20が点灯した。だが「ファンの方に大きく報道して下さい。逆に言えば、俺らには必要ない、邪魔な情報。これからも143試合まで目指す野球をやる。それは変わらない」。それが広島のやり方だ。カウントダウンには目もくれず、1歩1歩進んでいく。【池本泰尚】

 ▼広島に優勝マジック20が点灯した。巨人は残り29試合に全勝した場合、89勝51敗3分け、勝率6割3分6厘。広島は残り26試合のうち巨人戦5試合に敗れても、他カードで20勝すれば90勝51敗2分け、勝率6割3分8厘となり、巨人を上回る。2位以下の5チームに自力Vがなくなり、広島にマジックが出た。現日程での最短Vは9月6日。

 ▼広島のM点灯は91年以来だが、前回は9月21日に広島が巨人に勝ち、2位中日が敗れてM14。86年も巨人に勝って点灯と、3回続けて巨人を下した試合でマジックが出ている。これで広島は70勝に到達。広島にとって8月24日のM点灯は80年に並ぶ早さで、117試合目で70勝は80年の119試合を抜いて最速。