プロ2年目左腕のDeNA今永昇太投手(23)が、首位広島戦でプロ初完封勝利を飾った。打たれた安打は1回無死からの1本のみ。132球を最後まで投げ抜き、今季1勝目を収めた。昨季10月のクライマックスシリーズ(CS)ファイナルでは、1回6失点で降板。悔し涙を流したマツダスタジアムで、2年目の進化を証明した。

 半年前、わずか1回で降りたマウンドを、最後まで譲らなかった。今永が成長を示した132球。9回1安打完封のヒーローは、お立ち台で言った。「すごくホッとしています。押し込むところを押し込んで、自分の持ち味を忘れないようにしようと思った。何度もピンチがあったけど、みんなに助けられた。その中で踏ん張れたことがよかった」。

 首位広島。そして敵地・マツダスタジアム。状況は半年前と同じ。しかし中身はまるで違った。7回1死一、二塁。打席は好調のエルドレッド。マウンドに駆け寄るナインに、ハッパをかけられた。チェンジアップで追い込むと、最後も同じ球筋で空振り三振。「欲を出さずに、結果はゼロだけど1、2点あげてもいいと思うと気持ちは楽になった」と、無欲でリズムを崩さなかった。

 いい思い出と、苦い記憶が交錯する場所だった。昨年10月15日クライマックスシリーズ広島戦。負ければ敗退が決まる一戦に先発したが、1回6失点の大乱調で敗れベンチ裏で涙を流した。「生活の中で、一瞬思い出すことがある」と、半年たった今も脳裏から離れない記憶。一方で、プロ初勝利も、マツダスタジアム。「今年はいい思い出をつくる。早く苦手意識を払拭(ふっしょく)するためにも勝ちたい」と臨んだ試合だった。

 8回投げて118球。篠原投手コーチから最後までいけるか問われ「いきます」と答えた。未知の領域に踏み入れても「力のない球が後半増えたけど、要所で自分の投げたい球筋を投げることができた」と3人で終えた最終回。「まだまだ周りに助けられた投球。完封1回だけじゃ何も語れない」。かつて涙でぬれた悲劇のヒーローの姿は、どこにもなかった。【栗田成芳】

 ▼今永が1安打完封勝ち。DeNA投手の1安打完封勝ちは04年10月14日吉見が広島戦で記録して以来、13年ぶり。許した1安打は初回、無死一塁から菊池に打たれたもの。初回の1安打だけで完封勝ちは13年5月6日十亀(西武)以来だが、十亀は初回1死からの1安打。初回無死から打たれた1安打だけで、その後に27アウト取って完封勝ちは98年4月3日川村(横浜)が阪神戦(初回1番和田の1安打)で記録して以来、19年ぶり。