<ソフトバンク11-4西武>◇19日◇福岡ヤフードーム

 真っ赤に燃えた愛の一撃だ!

 ソフトバンク松中信彦外野手(36)が11年ぶりの代打弾で首位攻防戦の先勝を決定づけた。6回、西武2番手岩崎から右翼席中段に豪快なアーチをかけた。この日が誕生日だった恵子夫人は12月に第3子を誕生予定。開幕前からの約束を守る「予告アーチ」で大勝。チームは今季2度目の5連勝を飾り、首位西武に2・5ゲーム差と急接近した。

 狙っていた。燃えたぎる思いで松中は打席に向かった。6回裏無死一塁で「代打」がコールされた。「悔いだけは残さないよう、3球振ろうと思った」。空振り2つであっという間に追い込まれた後の3球目だった。西武岩崎の低めにきたシンカーを豪快にすくい上げた。手応えだけで、わかった。本塁打を確信すると着弾点には目もくれず、バックネット方向へ振り返り右手人さし指を突き上げた。そこには、愛する恵子夫人がいた。

 何が何でも打たなければいけなかった。この日は夫人の誕生日だった。04年に2発、05年にも1発を放った7月19日。だが、今季の「バースデー予告アーチ」にかける思いは、今までとは比べものにならなかった。昨年、2歳の次男が重い腎臓病を患った。家族全員での闘病生活が始まった。入院中、夫人は病院に泊まり込んでくれた。退院後も、自分をグラウンドに集中させるため、全身全霊で子供を守ってくれた。感謝の気持ちは計り知れないものとなった。

 開幕前に夫人のバースデーに試合が行われることを確認した時から、決意は固まった。「こどもの日と、妻の誕生日に絶対ホームランを打つ」。昨オフの手術の影響で、5月5日には2軍にいた。病気と闘う次男や、次男を支える長男のためにアーチは描けなかった。だからこそ、この一戦にかけていた。

 妻と2人の子供、そしてもう1つ--。「新しい命」のために、フルスイングした。恵子夫人のおなかの中には第3子が宿っている。誕生予定は今オフ12月。この日、自宅を出る際も、あらためて家族のために本塁打を打つと宣言していた。前日18日まで4試合連続でスタメン落ち。この日は全体練習開始の3時間近く前に球場入りし、若手に交じり早出特打でバットを振った。極めて約束を果たすのが難しいと思われたベンチスタート。だが松中はあきらめていなかった。

 神様は、見てくれていた。「チャンスがないと思ったけど、あそこで使ってくれた監督に感謝したい」。6回裏だった。2打席目が回ってくる保証は、どこにもない「ワンチャンス」を生かした。代打弾。99年以来、自身11年ぶりの代打弾で、かけがえのない家族との約束を守って見せた。

 「いつも支えてくれている嫁には本当に感謝しているので、最高のプレゼントができた」。劇的な本塁打で、真っ赤なユニホームを着て集まった3万6463人のファンの心も熱くした。チームは今季2度目の5連勝飾り、首位西武に2・5ゲーム差。主砲・松中の男気あふれる1発が、真夏の福岡の夜を、熱く熱く燃やした。

 [2010年7月20日11時29分

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