<中日2-4巨人>◇17日◇ナゴヤドーム

 久しぶりの感覚がよみがえった。2回1死二、三塁。ベンチは好調ロペスにバントをさせてまで、舞台を整えてくれた。不調でも関係ない。巨人坂本勇人内野手(24)が応える番だった。中日川上の138キロ外角球にバットが反応した。快音と好感触が体中を駆け巡る。4戦ぶりの適時打となる先制の2点を生み出した。「ロペスがしっかり送って、作ってくれたチャンス。モノにできて良かった。久しぶりに初球から積極的に振れた」。カウント別では初球が11打点と最も多い。積極性が戻ってきたことが復調の兆しだった。

 安打製造機の歯車が長らく狂っていた。8月中旬から何度もスランプが訪れた。23、24、17打席と3度も連続無安打の苦行が続いた。9月1日の中日戦の守備で右足首の内側を痛め、横の動きが困難になった。6~8日の阪神戦ではプロ入り後、初めて一塁手に入り、プレーしながら回復に努めた。それでも打撃のバランスは修正できず、3割を超えていた打率が2割6分台まで急降下した。

 だが心は折れなかった。4タコに終わった14日の広島戦後。深夜、暗くなった店の部屋で「明日は打ちたいな」とバットを持たずにスイングするマネを繰り返した。エア素振りに執念が垣間見えた。翌15日の広島戦も4打数無安打に終わった。「うぁ~!」と声にならない叫び声で帰りのバスに乗り込んだ。だが下だけは絶対に向かなかった。

 リーグ連覇は堅い。だがCSの突破、そして日本一連覇へ、坂本の完全復活は大きなカギを握る。だからこそ原監督も「本当に良かったと思う。チームを代表する選手。何十打席もノーヒットということがあってはいけない。ヒットの打席以外も内容は良かった」と喜んだ。坂本には、まだ確信がない。「打撃はすぐに悪くなる。1打席1打席、しっかりとやる」。実りの秋の月間打率は1割7分8厘。本来の姿を取り戻し、優勝の瞬間を迎える。【広重竜太郎】