<巨人6-7DeNA>◇8日◇東京ドーム

 巨人阿部慎之助捕手(35)が偉大な先輩の足跡をたどった。3回2死一、二塁。DeNA加賀の内角寄りに甘く入った137キロの直球がメモリアルな瞬間を生んだ。右翼席への弾丸ライナーでの1発が、OBの松井秀喜氏が日本球界で放った332本塁打に並んだ。「内角直球をうまくさばけた。(東京ドームでの今季初本塁打に)ちょっと遅すぎたね」と少しバツが悪そうに話した。

 12年前。332号の軌跡を目の当たりにした。メジャーに挑んだ松井の日本でのプレー最終年となった02年10月10日。東京ドームでのヤクルト戦で放った50号は日本での最後の1発となった。若き日の阿部はベンチで見つめていた。その記憶は今も色あせていない。

 阿部

 直前に三塁へのファウルを相手が落としたんだよね。で、打ち直しの1発。五十嵐の外角高めの150キロ近い速球を左中間にね。左打者があそこに運ぶんだから、すごいよ。

 松井の言葉が阿部の野球観を変え、松井の吸った空気が阿部の人生観を変えた。昨年12月。対談のために松井が住むニューヨークを訪れた。現役生活の終わりを遠くはない将来のことに感じていたが、先輩の意見は違った。「慎之助は『まだアイツやってんのかよ』と思われるぐらいまで、やってもいい。お前は、そういう存在。成績は落ちたとしても、誰も(現役に固執していると)思わない」。胸にストンと落ちる言葉だった。「何を悩んでいたのかな。(50歳近くでも現役の中日)山本昌さんを目指すよ」。摩天楼の街を歩き、純粋に野球を楽しむことを誓い、今季に臨んだ。

 5回には2点適時打。首痛など故障に苦しんだ序盤戦だったが、3安打5打点で不振からの脱出を示した。試合には敗れた。それも野球の日常だ。記録も通過点にすぎない。「記録を目標にしているわけではない」。いつまでも追う松井の背中が、阿部の推進力になる。【広重竜太郎】

 ▼阿部が3回に3ラン本塁打。通算332号は93~02年松井に並び、王、長嶋、原に次いで巨人歴代4位タイに浮上した。今季は走者を置いた場面で初アーチ。5回にも満塁から勝ち越し適時打を放ち、試合前までリーグ最低の1割5厘だった得点圏打率を1割9分にまで上げた。