<阪神3-1中日>◇20日◇京セラドーム大阪

 こんなラッキーあるなんて!

 阪神岩田稔投手(30)に、勝利の女神がほほえんだ。岩田は3連敗中だったが、7回4安打1失点の力投。代打を送られた7回裏、なんと落球で決勝点が転がり込み、熱投実っての9勝目。試合後には巨人敗戦も決まり、虎は首位に0・5ゲーム差。こんなおいしい奪首チャンス、生かさない手はない。

 うつむきかけた岩田の顔が、一瞬にして晴れた。代打を送られ待機していたベンチ後方から、手をたたきながら身を乗り出した。7回2死満塁。打者上本の打球は、平凡な中堅へのフライ、のはずだった。ところが中日大島が左翼藤井と接触。グラブからボールが飛び出た。まさかの決勝点。岩田に突然9勝目の権利が降ってきた。

 岩田

 どんな形であれ、点が入るのはうれしいこと。必ず点を取ってくれると思っていたのでよかった。

 視線をそらさず、送り続けた思いが通じた。7回4安打1失点。わずか90球で役目を終えていた。唯一のピンチだった2回をしのぐと流れに乗った。3安打で1死満塁とされたが「逆方向を狙っているのが分かったので、負けないように投げました」。外角低め直球で三ツ俣を併殺打に仕留め無失点。持ち味が出た。

 果報は寝て待て-。岩田の今季を象徴する結末だ。今季は開幕ローテを逃しながらも、7月は4勝1敗で自身初の月間MVPを獲得。だが8月になると失速した。勝ち星はなく自身3連敗中だった。「考えても一緒」。無心に戻り、とにかく腕を振ることに集中。わずかな邪念も振り払った。

 13日巨人戦に負けたその夜には「終わったこと」と伸ばし続けていたヒゲをそった。横振りになっていたフォームは中西投手コーチとボールをたたきつける練習で修正に取り組んだ。加えて自宅では朝、米大リーグをチェック。カブス藤川や和田ら親しい先輩の活躍を楽しみにしてきた。

 岩田

 今日の感覚としてはよかったです。真っすぐでファウルが取れていました。低めにコントロールして打たせて勝負する投手なので、続けていきたい。

 無四球のテンポいい投球に和田監督も「7月の頃に戻ったんじゃないのかな。キレも戻ってきた」と一安心だ。中日に連勝し、首位巨人に0・5ゲーム差まで肉薄。今日にも首位に立つ可能性まで浮上した。無心で、信じた。ラッキーパンチかもしれない。だがそれは岩田が手を出し続けた証拠だ。この日、規定投球回数に達し、リーグ防御率トップで再登場。手にした9勝目は奪取への合図になる。【池本泰尚】