<巨人4-5阪神>◇27日◇東京ドーム

 マウロ・ゴメス内野手(29)が崖っぷちの虎を救った。負ければ自力優勝の可能性が消滅する巨人との首位攻防第2ラウンド。5回までの3点差もなんの。6回に反撃の適時打を放ったゴメスが最後にケリをつけた。3-3の延長10回、2試合連続の21号決勝2ランを左翼上段へかっ飛ばした。前日は巨人の4番阿部に反撃2ランを浴びて、結果的に逆転サヨナラ負けしたが、この日は虎の4番がやり返した!

 希望をつなぐ弾道が左翼上空を舞う。これだ。こんな4番を待っていたんだ。同点の延長10回1死一塁。ゴメスがマシソンの高めの速球を強振した瞬間、黄色く揺れる。高い放物線を描いて、客席に吸い込まれる。和田監督も「ザ・4番という、いい仕事をしてくれた」と興奮が収まらない。負ければ首位巨人に3・5ゲーム差で自力V消滅の危機。起死回生の21号2ランで激闘に終止符を打った。

 お立ち台では「打った瞬間に、入ると思った。ハッピーな気持ちさ。しっかり打てたと思う。何度も言うけどハッピー、ハッピーだよ!」と連呼するほど、我を失っていた。首位攻防戦で2試合連発。長らく猛虎に不在だった長距離砲が、大一番で威力を発揮した。

 実は、わずかだが、左足の使い方を変えていた。直前カードの広島戦は12打数1安打7三振。前日26日の試合前練習はオマリー打撃コーチ補佐と三塁側の室内練習場にこもった。これまで高く上げていた左足を、すり足にするよう助言されたという。関係者は「打ちに行くとき、左足が内側に入りすぎていた」と説明。6回1死一、二塁での右前適時打も決勝弾も左足をわずかに上げただけ。ノーステップに近い形で快音を響かせた。来日1年目で大きなスランプがない。最大の武器は他者の助言を聞き入れる素直な「心」なのだ。

 昨年秋、阪神は、こんなゴメスの「心」に引かれていた。新外国人補強で最終候補に残り、メヒア(現西武)とてんびんにかけられた。球団関係者は「飛距離はメヒアの方が上。でも、守備や走塁はゴメスが上。広い甲子園でプレーするなら、どちらがいいか」と明かす。間近でプレーを見続けたシーツ駐米スカウトの報告も判断材料だった。項目ごとにABCのランク付け。メジャーの一塁手と比較してパワーは「C」だった。そのなかで寸評があった。「得点圏での集中力がすごい」。勝負どころで雑念がない心のタフさがあった。今季の得点圏打率3割2分1厘。89打点は1位の広島エルドレッドに2点差で打点王も視野に入れる。

 豪快弾の行方はキリンビールの大看板へ。直撃なら賞金100万円&ビール1年分のご褒美。「看板に当たったのは知らなかった。何とか優勝して、みんなでおいしいお酒を飲みたいね!」。実はフレームに当たっており、外れた。それでいい。アーチを連発して逆転Vに導けば、秋に浴びるほどビールを味わえる。【酒井俊作】

 ▼ゴメスが延長10回に勝ち越しの21号。延長イニングに打った1発は来日初めてだ。このカードは8月14日の18回戦でセドンから同点弾、同26日の19回戦で先制弾を放っており、阪神の外国人選手が巨人戦で3試合連続本塁打は03年アリアス以来、11年ぶりになる。これでゴメスの肩書付きの殊勲安打は合計24本目。セ・リーグの殊勲安打3傑は(1)ゴメス(阪神)24本(2)丸(広島)22本(3)マートン(阪神)ルナ(中日)19本で、ゴメスが最も多い。