ソフトバンクが29日のドラフト会議で花巻東(岩手)の最速155キロ左腕、菊池雄星投手を競合覚悟で1位指名する可能性が高まった。28日、都内のホテルで編成会議を開き、方向性を固めた。最終決定はドラフト当日朝で、秋山幸二監督(47)は王会長の「黄金の右手」にならい、利き腕と逆の左手で抽選に臨む。菊池回避の場合の候補は、明豊(大分)の今宮健太内野手に絞り込んだ。

 都内ホテルの小部屋。他球団が去ってもソフトバンクの編成会議は終わらない。5時間に及んだ議論が今ドラフトのすべてを物語った。花巻東・菊池の1位指名方針だ。「方向性はある程度決めた。最終的には明日(29日)の朝。菊池の評価が高いのは当然だが、その先は言えませんよ」。角田球団代表は球団方針に従い、明言こそ避けたが、別の球団幹部が「今年のドラフトのポイントは外れ1位の選手をどう確保するか。どれだけ他球団の戦略を見極められるか」と明かした。この言葉こそが、すべてだ。菊池を抽選で外した場合の数々のシミュレーションに会議時間の多くが割かれていた。

 菊池回避の場合の1位候補、あるいは外れ1位には高校通算62本塁打の今宮(明豊)が挙がっている。これまでセンバツV右腕の今村(清峰)も1位候補に名を連ねたが、今宮ならば単独指名が狙えるメリットがある。小川スカウト部長が「20年スカウトをやった中でナンバーワンの左投手」と評価する菊池強行指名ならば、競合は最大9球団。抽選確率は低いが、引き当てた場合は数字では計ることのできない力がチームに加わる。

 ソフトバンクは昨年も競合覚悟で東海大相模・大田(現巨人)を1位指名し、巨人との一騎打ち抽選で敗退した。それを踏まえ、秋山監督は2度目のドラフトに験担ぎで挑む。「大抽選になるのか、小抽選になるのか。昨年は右だったから、今年は左手かな」。ダイエー時代の王監督(現会長)が繰り出した「黄金の右手」にならった、利き腕と反対でのくじ引きだ。01年ドラフトで王監督は通算4度目の抽選にして初めて右腕を使い、4球団競合した寺原(現横浜)の交渉権を引き当てた。秋山監督も左手を“解禁”して菊池を引き寄せるつもりだ。

 会議に続いてホテルの中華料理店で開かれた食事会後、秋山監督は「ピッチャーが必要。毎年だけどね」と言い残して、ホテルの自室に戻った。注目の最終決断は29日朝に下される。