ある親方は「これは私が言ったとは書かないでね」と匿名を前提に声をひそめて話し始めた。

 「稀勢の里の横綱昇進は、白鵬とやる前に決まったでしょう? 今場所の大関戦は1勝1敗で、休場した横綱2人と対戦していない。昇進が決まった段階で、格上に勝っていない。連続優勝でもない。『綱とり場所』とも言われていなかった。プレッシャーを乗り越えて横綱になった人とは違う。これは不平等だよ」

 審判部は総意として昇進を推す一方、内部にはこんな意見もある。昇進に賛同しない相撲ファンもいる。

 5度も優勝しながら、横綱になれなかった元大関魁皇の浅香山親方はどう思うか。「俺は優勝して休場しての繰り返し。稀勢の里は安定しているし、年間最多勝もある。横綱より成績がいい。文句はないでしょう」と指摘した。この昇進は、稀勢の里にとって重圧になりえないだろうか。「それは本人しか分からない。横綱になったら、さらに強くなって、もっと優勝しそうな感じがする。これまでもすごいプレッシャーがあった。耐えられる力は十分ある」。

 私も、横綱稀勢の里には異論をはね返す力があると思っている。【佐々木一郎】