<プロボクシング:WBC世界スーパーバンタム級タイトルマッチ12回戦>◇24日◇東京・両国国技館

 WBC世界スーパーバンタム級王者西岡利晃(34=帝拳)が5度目の防衛成功で伝説の先輩王者に並んだ。同級1位レンドール・ムンロー(30=英国)との対決で、試合中に両拳を負傷しながらも大差の判定勝ち。試合中に右足をねんざしながらV5を達成した帝拳ジム初の世界王者、元WBA世界フライ級王者の故大場政夫さん(享年23)と防衛回数で並んだ。次戦以降で、現3階級制覇王者フェルナンド・モンティエル(31=メキシコ)との防衛戦計画も浮上している。西岡の戦績は37勝(23KO)4敗3分け。

 普段はKOを狙わない西岡が、鬼気迫る表情でムンローに襲いかかった。ポイント大量リードで迎えた最終12回の直前。セコンドの田中トレーナーから「KOするところを見せてみろ!」と髪の毛をつかまれ、顔をリング下の妻子に向けられた。「ヨッシャー」。家族のため、5連続KO防衛記録を期待するファンのため、猛ラッシュで仕留めにいった。倒せはしなかったが圧勝判定でV5達成。それでも「最後は倒したかったですね」と、珍しく悔しさを表した。

 約37年前、偉大な先輩が同じような必死の形相でV5を達成していた。1973年(昭48)1月2日、帝拳に初めて世界王座をもたらした故大場さんが、試合中に右足をねんざしながら5度目の防衛に成功した。この日の西岡も、アクシデントに見舞われていた。4回以降に両拳を負傷。試合後、左拳の中指部分からは出血していた。それでも攻撃の手を緩めなかった。

 開始から右ジャブでペースを握り、途中で「ボディーが意外に近い」と気づくや、腹にも強打を見舞ってぐらつかせた。かつてKOを決めたラウンドで猛ラッシュを見せた大場さんが乗り移ったかのように、痛みを忘れ猛攻を続けた。それだけでなく、右から左へと流れるようにパンチをつなげ、素早く動いては相手のパンチを外した。「痛みがあったけど、うまく角度を変えながらパンチを当てた」。闘志と高い技術で、最強挑戦者を一蹴した。

 連続KO防衛こそ止まったが、帝拳では大場さん以来のV5の領域に足を踏み入れた。西岡は「大先輩としてものすごく尊敬していますから光栄です」とほおを緩めつつ「でも、並んだとかじゃない。これから僕も歴史をつくっていきます」と表情を引き締めた。

 次戦では3階級制覇王者モンティエルとのビッグマッチも浮上している。西岡は「(本田)会長に任せているので」と前置きしつつ「望むところです。ぜひやりたいですね」と受けて立つ構えも見せた。

 試合直後のリング上、V4戦は発熱で来場できなかった長女小姫ちゃんを抱き上げた。KO勝利ではなかったが、4歳の愛娘はマイクに向かって突然叫んだ。

 「パパは誰にも負けないぞ!」。

 歴代3位の34歳2カ月での防衛成功でさらなる進化を見せた最強のパパも、このときばかりは目尻を下げた。愛娘の言葉通り、西岡は偉大な先輩の魂もしっかり受け継ぎつつ、また1つ最強王者への新しい階段を上がった。【浜本卓也】