「プロレス界の鉄人」小橋建太(46)がきょう11日、引退試合(日本武道館)を迎える。10日には、13年間汗を流し続けたノア道場で、現役最後の練習を行った。25年を超えるプロレス人生のラストマッチ。多くのけがと大病を、不屈の精神で乗り越えてきた。支えてもらったファンへ、感謝の思いを胸に、小橋建太が最後のプロレスを見せる。

 満足そうな表情と小橋らしいはち切れそうな大胸筋の張りが、極限のトレーニングを物語る。小橋は00年のノア移籍以来、13年間汗を流した道場で、現役として最後の練習を行った。「道場は神聖な場所。感謝の気持ちです」。特別な場所に別れを告げた。同日、行われたテレビ局の撮影では、井上雅央(43=フリー)を相手に、代名詞の逆水平チョップを確認。井上の胸が真っ赤に腫れ上がるほどのチョップを披露したという。「あとは本番をやるだけ」と力強く言い放った。

 07年以降プロテインを飲めなくなった。06年に腎臓がんが発覚、右腎臓摘出手術を受けた。07年12月、546日ぶりに奇跡の復活を遂げたが、それ以降もレスラーとしての苦しみは続いた。「プロテインを飲むと腎臓の数値が上がる。食事制限もあるし、前のように大きい体を維持するのは難しくなった」。

 レスラーとしての体を作るために必要なタンパク質が取れない。現在105キロを維持するが、ベスト体重についても悩み続けた。体は長年の戦いで満身創痍(そうい)。膝への負担もあり、無理に体重を増やすことはできない。体を大きくしたい思いと、安易にできない現実に苦悩した。

 それでも真っ向勝負が信条の小橋らしく、状況を直視した。「できることをやらないと前には進めない」。プロテインの代わりにアミノ酸を摂取するようにした。「両方を自分の体で試したらアミノ酸の方がよかった」。試行錯誤の末、たどり着いた。体調と体重の両方に気を使いながら、引退試合に向け懸命にトレーニングを続けた。

 満員の日本武道館での最後の舞台。試合が終われば、小橋建太はプロレスラーではなくなる。「これまで四半世紀やってきた。プロレスラーとしての肩書がなくなることに寂しい思いはある」。しみじみ話す小橋の口調に実感がこもる。1発1発のチョップに感謝と25年間の思いを込める。「とにかくお客さんに楽しんでもらうのが一番」。ファンを愛し、ファンに愛された男の最後の姿に期待が高まる。【奥山将志】