今月5日に、WBC世界フライ級王者・八重樫東(31=大橋)が、39戦無敗の最強挑戦者ローマン・ゴンサレス(27=帝拳、ニカラグア)と4度目の防衛戦を行う。2階級制覇王者同士の注目の一戦を前に、ゴンサレスと対戦経験のある、元WBA世界ミニマム級王者新井田豊氏(35)、前IBF同級王者高山勝成(31=仲里)、八重樫をよく知る元WBC世界スーパーフライ級王者川嶋勝重氏(39)に試合展開を予想、分析してもらった。3者ともに八重樫勝利のポイントに「後半勝負」を挙げた。

 39勝(33KO)の驚異的なKO率が示す通り、ゴンサレス最大の武器は卓越したオフェンス技術だ。対戦した2人は、パンチの質が他の選手とは異なると声をそろえた。

 新井田

 僕は1回の右ストレートで鼓膜を破られた。ロマゴンはすべてのパンチをナックルパートで打つ技術がある。拳を面でとらえてくるので、体との間に隙間がなく、ゴツンゴツンと打たれる感覚だった。

 高山

 腰をフルに生かしたパンチで1発1発が重たい。それに加えて、上下に攻撃を散らしてくるので、コンビネーションが見えづらい。普通はアッパーが来ると思ったらアゴを引き、歯を食いしばってパンチを殺すが、見えないからそれができなかった。

 穴のないゴンサレスの攻撃で、唯一「一角落ちる」とされるのがスピードだ。だが、圧力をかけてきた時の連打は、それを問題にしないほどの技術と力があると新井田氏は言う。

 新井田

 一般的にラッシュには必ず「波」があるが、ロマゴンのはそれが長い。打ち方が理にかなっているから、パンチを続けても疲れない。そして、終わったかなと思ったら、内角に突き上げるような得意のアッパーが飛んでくる。テンポというよりも強打をバランス良く打ち続け、相手に反撃を許さない。

 戦前の予想では「八重樫不利」の声が多い。では、どのような試合展開なら勝機を見いだせるのか。3者ともに共通したのが「後半勝負」という点だ。

 川嶋

 八重樫は激しい打ち合いのイメージが強いが、本来はアウトボクシングが得意な選手。お互い元気な序盤は、特に足を使って優位に進めたい。(WBCルールの)4回と8回終了時に公開採点があるのも重要な要素。4回は最低でもドローで終えないと苦しい。仮に中盤で盛り返されても、スタミナでは八重樫が上なので、後半になれば戦い方を変えられる。

 高山

 判定勝ち狙いでいいと思う。どれだけ下がりながらポイントを取るボクシングを続けられるか。ただ、中盤まで思うようにポイントが取れず、判定でも苦しい展開になれば、開き直ってケンカ(打ち合い)ができるのも八重樫さん。プレッシャーに負けて付き合わされるのは嫌だが、相手のスタミナ、集中力が切れてきた後半なら逆にKO決着もあるかもしれない。

 「後半勝負」に持ち込むために、必要不可欠なのが中盤までの我慢だ。心身の削り合いをいかに耐えるか。八重樫にとっては、そこが勝敗の分かれ目になる。

 新井田

 ロマゴンも、あそこまで気持ちが折れない選手とは戦ったことがないと思う。劣勢になってもそこからひっくり返せる。きつい攻めを覚悟して、見ているこっちまで疲れるようなタフな試合になれば、八重樫選手の流れ。前半で下がらずに我慢すれば、後半に倒すチャンスも来る。

 川嶋

 初めての世界戦であごを2カ所折られても最後まで戦った男。気持ちでは負けない。それに、ロマゴンもフライ級での世界戦は初めて。戦ってみて八重樫が「思ったよりパンチがないな」と感じる可能性もある。ミニマム級で戦ったら勝てなくても、フライ級なら体の力の差が出るかもしれない。そういう展開になれば勝機は広がる。

 強すぎて相手がいないとまでいわれたゴンサレスを、八重樫は防衛戦の相手に指名した。「おとこ気」でファンの喝采を浴びたが、ゴールはもちろんそこではない。2階級制覇王者同士の真っ向勝負に、引退した先輩世界王者からも力強いエールが送られた。

 新井田

 勝敗は分からないが、「これがボクシングだ」という試合を見せてくれると思う。決して無謀な挑戦なんかではない。自分も1人のファンとして楽しみにしている。

 川嶋

 みんなの記憶に残るような熱い試合をして欲しい。八重樫はランニングトレーニングで抜かれるのさえ嫌がるほどの負けず嫌い。やってくれると思う。最後は僕の好きな言葉「気合、根性」。同じレベル同士の戦いになったら、勝ちたいという思いが強い方が勝つ。それは4回戦でも、世界戦であっても同じだ。

 ゴンサレスの3階級制覇達成か、八重樫が意地を見せるのか-。決戦まで、あと3日。両者は、今日2日に都内で行われる予備検診で対面する。【取材・構成=奥山将志】

 ◆高山-ゴンサレス戦VTR

 09年7月、高山がWBA世界ミニマム級王者ゴンサレスに挑戦。序盤からゴンサレスの強打に苦しめられる展開で、6回にパンチを浴びて左目上をカット。中盤にはボディーを中心に反撃もみせたが、終盤は猛攻を浴びた。気力を振り絞り、最後までリングに立ち続ける意地を見せたが、ジャッジ3者とも8点差をつける完敗だった。

 ◆新井田-ゴンサレス戦VTR

 08年9月、WBA世界ミニマム級王者・新井田が8度目の防衛をかけ、20戦全勝の同級1位ゴンサレスと対戦。初回から右フックで鼓膜を破られるなど劣勢。4回に打ち合いを挑んだが、アッパーを受けた右目が腫れあがり、ドクターチェックで試合続行不可能と判断され、1分59秒、TKO負け。約4年間保持してきた王座を失い、この試合を最後に引退した。

 ◆新井田豊(にいだ・ゆたか)1978年(昭53)10月2日、横浜市生まれ。96年にデビューし、01年8月にWBAミニマム級王座獲得。一時は引退も04年7月に再び同王座獲得。V7防衛後、ゴンサレス戦で引退。現在は横浜市営地下鉄・センター北駅徒歩2分の一般向けボクシングスタジオ「新井田式」を主宰。

 ◆高山勝成(たかやま・かつなり)1983年(昭58)5月12日、大阪市生野区生まれ。00年10月にデビューし、05年4月にWBCミニマム級王座獲得。06年11月にWBA同級暫定王座、13年3月にIBF同級王座を獲得。今年8月にWBO王者との統一戦で敗れ、王座陥落。戦績は27勝(10KO)7敗1無効試合。

 ◆川嶋勝重(かわしま・かつしげ)1974年(昭49)10月6日、千葉・市原市生まれ。21歳で大橋ジムに入門し、97年デビュー。04年6月、WBC・Sフライ級王者徳山への2度目の挑戦で1回KO勝ち。05年7月、V3戦で徳山に敗れ王座陥落。08年引退。現在は夫人が経営するアクセサリー店で職人として勤務。