<フィッシング・ルポ>

 寒風が吹き抜け、澄んだ空気の向こうに世界遺産・富士山がくっきり見えるこのころ、静岡・清水港では50センチ超の大きなクロダイがじゃんじゃん釣れている。そこで、清水「原金釣船店」から出漁して、独特のダンゴ釣りを取材してきた。腕に覚えのある地元のクロダイ釣りクラブが例会を開催すると聞いて、密着してみた。なんとダンゴを使わぬ釣法で55センチが釣り上げられた。

 清水港のクロダイ釣りは特殊といっていい。オカラの中にクロダイの好みそうな飼料を混ぜて、両手で丸めて、ダンゴをつくって、その中にエサの付いたハリを仕込む。このダンゴは水の中で少しずつ溶けて、魚を集める効果がある。パカッ、とダンゴが割れた瞬間にエサが出てきて、近くにいたクロダイが食らいつく-ということを想定している釣りだ。

 水深は15メートル前後、浅いポイントは10メートルより浅い。仕掛けは、フロロカーボン2号の道糸に直接チヌ4号のハリを結ぶだけ。シンプルだ。エサは通称「ボケ」と呼ばれるスナモグリ、生きたモエビ、大粒オキアミ、コーンなど。特殊な釣りではあるが、コツさえつかめば、誰にでもできる釣りともいえる。

 この日は都内で大雪が降った翌日。かつてプロ野球のキャンプ地になっていたぐらいの温暖地ということもあって、雪は富士山山頂にしか見当たらなかった。日中は太陽も顔を出し、ポカポカ陽気-これは、もしや、50センチオーバーが出る予兆なのか?

 清水のクロダイが特殊なのは、同じ船に乗り込んで釣りをするのではなく、2~3人乗りのボートを湾内各所に点在させる。その日の様子を見て、吉原浩二船長(50)がエンジンボートで1隻ずつ係留させていく。今月5日に今季最大の58・5センチを記録している大ベテランの鈴木孝久さん(47=静岡市)と一緒のボートに乗せてもらった。清潮会というクロダイ釣りクラブの会長で、この日は同会の第58回例会だった。

 結果は、折戸に入った前田芳政さん(47=クロダイ歴21年)が52・5センチ(2・24キロ)を筆頭に5匹を釣り上げた。

 前田さん

 もう1隻、近くに入っていたので、とにかく魚を寄せる作戦に出た。釣り用ではなく、ダンゴを10個ほど用意して次々に投げた。そうしたら2投目で48センチがヒットした。その次に52・5センチを釣り上げた。

 近くにいた“もう1隻”は和賀井昌義さん(46=クロ歴14年)だった。ダンゴを使っていなかった。

 和賀井さん

 前田さんがダンゴを打つのはわかっていた。底狙いを捨て、宙層の釣りに撤した。前田さんから魚が浮いてるとの情報もあったので、ダンゴは付けずにハリにモエビを直接掛けて、落とし込みで反応を待っていたらガツン、ときた。長さは55センチ(2・72キロ)。こんなの初めて。うれしい。

 鈴木さんも40センチを2匹釣った。エサを付けたハリをダンゴの中に入れるが、ダンゴを道糸の途中で丸めて、その下からモエビを掛けたハリをぶら下げた。

 鈴木さん

 どうもダンゴへのクロダイの反応が薄い。そこで、エサを隠すのではなく食い付きやすいように外に出したら狙い通りにヒットした。

 仕掛けは単純だが、工夫次第では、いろいろな釣りができる。ダンゴ釣りだけど、ダンゴを使わずにエサを目立たせることでクロダイの食い気を誘うこともできる。吉原船長は「これだけ50センチオーバーが釣れるのは地道な放流事業を30年ほど続けてきたから。釣るためのアイデアが必要だろうけど夢の60センチも出るかもね」と話した。清水のクロダイは、まだまだ熱を帯びていきそうだ。【寺沢卓】

 ▼清水「原金つり船」【電話】054・352・3065。平日は1隻1人6510円、2人8820円。土日祝日は1隻1人8085円、2人1万500円。出船は2月は午前6時半、3~4月は同6時。エサ、氷は別料金。オカラはおけ1杯で630円。2月定休は18日(火)19日(水)28日(金)。