韓国国会で野党3党が提出していた朴槿恵大統領(64)の弾劾訴追案が9日、可決した。朴氏は職務停止となり、黄教安(ファン・ギョアン)首相が権限を代行することになった。朴氏は可決後、大統領府での閣僚会合で「私の不徳と不覚により国家的混乱を招き、国民の皆さんに申し訳ない」と陳謝した。

 訴追案の可決には、国会議員の定数300人の3分の2以上が必要だったが、賛成234、反対56(棄権2、無効7)で、3分の2を大きく上回った。野党・無所属172人のほか、与党セヌリ党の128人中少なくとも62人が賛成し、約半数が造反。朴氏は与党にも見捨てられた格好だ。

 大統領の友人、崔順実被告による国政介入疑惑が発覚して1カ月半。怒涛(どとう)の国民の声が国会を動かした。ソウルでの抗議集会は日増しに拡大。第2都市の釜山、朴氏の地元大邱でも退陣運動が連日展開され、今月3日には全国で232万人(主催者発表)に。デモは87年の民主化以降、最大規模に膨らんだ。

 8日夜も市民は雨のソウルで声を上げた。人気テレビ司会者キム・ジェドンが「朴槿恵は崔順実に(刑務所で)会ってこい」と叫ぶと、笑いが起きた。SNSでは人気グループ2PMチャンソン、歌手イ・スンファンがこの日の弾劾可決を歓迎した。父朴正熙元大統領の娘としてシニア層から高い支持を得てきたが、民衆の怒りは大炎上。持ちこたえるのは困難だった。

 朴氏は今月6日、18年2月までの任期満了を待たずに、セヌリ党が求めた来年4月末の退陣を受け入れる意向を党幹部に伝えていた。一方で、180日以内に行われる憲法裁判所の判断を待つ姿勢も維持する。この日の閣僚会合でも「憲法裁判所の審理と特別検察官の捜査に淡々と対応する」と、自らの辞任時期については言及しなかった。

 韓国大統領の弾劾可決は04年の盧武鉉大統領以来2例目。女友達の国政介入疑惑は、大統領の退場という衝撃の結末を呼んだ。

 ◆国政介入疑惑 朴槿恵大統領が親友、崔順実被告に機密資料を提供、国政に不正介入させるなどした疑惑。検察は崔被告や前高官ら3人を職権乱用や公務上の秘密漏えいの罪で起訴、事情聴取を拒否した朴氏も共謀関係にあったと認定。

 ◆大統領の権力 黄教安首相が職務を代行することで、国軍の統帥権や憲法改正発議権など内政、外交、安全保障に絡む強大な大統領権限は、黄氏に一時的に委譲される。首相の職務代行は04年に盧武鉉大統領(当時、故人)の弾劾訴追案が可決されて以来。大統領としての身分は職務権限が停止されても維持される。韓国メディアによると、朴氏の年俸は約2億1200万ウォン(約2000万円)。野党側は給与支給や手当を制限する法制定を検討している。

<韓国大統領の疑惑経過>

 ▼10月24日 朴氏の演説草稿など機密資料を崔順実被告が事前入手していたと報道

 ▼同25日 朴氏が「一部の資料について意見を聞いた」と認めて国民に謝罪

 ▼11月3日 崔被告逮捕

 ▼同6日 朴氏元側近の大統領府前高官2人を逮捕

 ▼同20日 検察が崔被告や前高官ら3人を職権乱用などの罪で起訴。検察は朴氏について「相当部分で共謀関係にある」と発表

 ▼同22日 政府から独立した「特別検察官」による疑惑捜査を定めた特別法を閣議決定

 ▼同29日 朴氏が進退を国会に委ねると辞意表明する

 ▼12月1日 与党セヌリ党が朴氏に17年4月末の退陣を求める方針決定

 ▼同3日 野党3党が朴氏の弾劾訴追案提出。ソウルで過去最大の退陣要求集会(主催者発表170万人)

 ▼同9日 朴氏の弾劾訴追案可決