津軽半島の北端、「津軽海峡・冬景色」の竜飛岬で知られる青森県外ケ浜町三厩(みんまや)地区。食料品店「細田食品」の細田義幸さん(69)は雪の中、今日も2トントラックの移動販売車で地域を回る。「この辺は車がないと不便ですから。80歳を過ぎて乗り物がなくて、買い物に出られない家があるから、23年前から回っています。最近、免許を返納した人も私のお客さんでもいくらかいます」。

 三厩地区は、町役場や病院のある蟹田地区とは飛び地になっていて、蟹田地区行きのバスの運行は1日1往復だけだ。地区内の循環バスは2時間前後に1本、1日7往復。タクシー会社は隣町に1軒あるが、台数は3台だ。病院、役場、食品の買い出しに行くのにも、自動車が生活の中で果たしてきた役割は大きい。

 町によると、町民の高齢者率(65歳以上)は46・3%。県平均の30%の1・5倍にあたる。町では、高齢者の免許自主返納制度が始まった1998年(平10)から14年後の12年度から、70歳以上の運転免許更新時の高齢者講習の費用補助を始めた。12年度に36人、13年度は13人だったが、14年度は70人、15年度も72人が利用した。「生きていくには車がいる」。そんな地域の声を受けた、生活を守るための政策だ。

 しかし、この政策も4月から、より返納に向けた政策に変わりそうだ。町は補助自体は継続するが、来年度からは補助対象年齢を77歳までとし、逆に自主返納の手数料を補助する案を3月の町議会に提出する。「高齢者の交通事故が多くなってきた」という社会情勢を受けての措置という。

 細田さんは「認知症の対策なら仕方ない」と考える一方で、高齢者の免許更新制度が厳しくなることを「不安に思う人もいると思う」と話す。移動販売で地域の高齢者を支えてきた細田さん自身も69歳。午前5時前に起き、往復3時間の市場に通い、移動販売を続けるのが厳しくなってきた。「70歳になったら店も販売車もやめようかなと思っています」。地域には他に4台ほどの販売車があるが、細田さんより高齢の事業者もいるといい、10年先に何台あるかは分からない。生活に大きな影響が出かねない問題だけに、地域では不安が広がっている。【清水優】

 ◆外ケ浜町 青森県の津軽半島の北東部に位置する人口6647人の町。05年に旧蟹田町、旧平舘村、旧三厩村の1町2村が合併した。役場のある蟹田地区から今別町を挟んで、津軽半島北端の竜飛崎がある三厩地区が飛び地になっている。JRは津軽線蟹田駅、中小国駅、大平駅、三厩駅の4駅がある。国道339号の竜飛漁港バス停から竜飛埼灯台を結ぶ部分が、日本で唯一の「階段国道」に指定されている。本マグロ、ヒラメなど海産物が特産。森内勇町長。