新潮社は25日、性的少数者(LGBT)への差別的表現があると批判を受けていた月刊誌「新潮45」の休刊を決めたと発表した。同社の伊藤幸人取締役広報担当によると、この日の役員会で佐藤隆信社長と編集担当役員1人の減俸処分も決定した。社として問題だったのは10月号としたが、具体的にどの表現が問題だったかについては「控えたい」とした。雑誌の内容については、編集権の独立を尊重しており、役員も発売日以降に知ったという。
この日発表した新潮45の休刊声明では「ここ数年、部数低迷に直面し、試行錯誤の過程で編集上の無理が生じ、企画の厳密な吟味や十分な原稿チェックがおろそかになっていた。その結果、このような事態を招いた」としていた。
取材対応した伊藤氏は「部数が減ると編集部にあせりが生じるのは人情的に否めない」と明かした。そして「無理」を積み重ねた結果、今回の事態が生じたとし「十分な編集態勢を準備できなかった経営責任もある」として、社長と編集担当役員の減俸10%3カ月の処分が、この日の役員会で決定したと明らかにした。
10月号が発売された18日から1週間後というタイミングについては、毎週火曜日に定例取締役会を開いており、決断がこの日になったと説明した。
休刊に至った原因の個別の「表現」については21日の社長声明と同様、明言はしなかった。社長声明は自民党の杉田水脈衆院議員の「(LGBTは)生産性がない」とする寄稿を掲載した8月号ではなく、8月号を受けて起きた批判に対する反論として「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」という特集を組んだ10月号の一部を問題視した内容。伊藤氏も「8月号が問題なかったという言い方はあれだが、8月号だけで休刊の決定はしていないと思う」と説明した。
10月号では、文芸評論家・小川栄太郎氏が、LGBT(性的少数者)が生きづらいなら痴漢も生きづらいとし、「彼らの触る権利を社会は保障すべきでないのか」という表現が大きな批判を受けた。ただ、伊藤氏は「新潮45は寄稿していただいて成り立っている雑誌。誰がどうのということは避けたい」との説明にとどめた。休刊声明で初めて入った「おわび」は「社会すべてに対するおわび」だという。
新潮社では各編集部の編集権を尊重する姿勢といい、今回の10月号の内容について、編集長以下編集部以外の役員らが内容を知ったのは「18日の発売日以降」という。編集長の処分については「雑誌が休刊するということは、編集長ではなくなるということ」とした。編集長を含めて6人の編集部の現在の主張について、伊藤氏は「聞いていない。じっくり、彼らの思いを聞いてみたいと思う」と話した。【清水優】
◆新潮45 新潮社の月刊誌。45歳以上の中高年層を対象にして82年に「新潮45+」として創刊された後、85年から現在の誌名になり、スキャンダルから社会問題まで幅広く扱ってきた。今年に入ってから反リベラルの色を強めていた。最新の発行部数は、日本雑誌協会によると1万6800部。