【第58回】
問題を否認せず、冷静に
薬物依存症(5)
自分の子どもが薬物を使用している現場を見つけてしまったり、部屋の中、ポケットの中から薬物や注射器などが出てきたら、親はどうしたらいいのだろう。「親として何か言わなければならない気持ちになるのは当然ですが、いきなり怒ったり説教したりしない方がいい」とアドバイスするのは、薬物依存症の回復者の支援組織である東京ダルクの幸田実氏だ。できるだけ冷静に「こういうのを見つけたんだけど、あなたはどう考えているの」と声をかけることを勧める。「クスリを使い始めたころは、周囲が大変なことになったと考えているほどに、本人は自覚していません。冷静になるのは難しいでしょうが、冷静になろうと努力してください」。
依存症になる子どもは、何かに依存しなければならない理由を抱えているという。「使っている本人には使うだけの理由があります」と依存症が心の病気であることを説明する。「逆説的に聞こえるかもしれませんが、やめさせようとしないことが対応する上での適切な態度です」。やめさせようとするよりも、親の自助グループなどに参加し、依存症について正しい知識を勉強することを勧める。「社会的に成功している親ほど、問題を否認する傾向にあり、また世間体を考えて子どもの問題を尻ぬぐいしようとします」。
「依存症にはまる人たちには、人のためになって、自分のためにならん生き方をする、いわゆるいい人が多いのですよ」と苦笑するのは、この夜間集会の司会者でもある院長の西脇健三郎医師だ。思春期で依存症になる人は、人に気兼ねをしたり、親にもノーと言えずにいたり、本当の自分を出せないような人が多い。融通が利かないことも多く、対人関係でストレスを抱え込んでしまう。ストレスによって心身症になる子どももいれば、うつ病になる子も、依存症になる子もいるが、その根は同じだという。
回復に向かうためには、「ターニングポイント」つまり、本人が本当に困り果てるという体験をすることが必要だという。ダルクの人々はこれを「底付き体験」とも呼ぶ。例えば、薬物乱用によって警察に捕まったり、大きな借金を抱え込んだりしたときに、家族が問題を肩代わりしてあげると、本人は現実を受け止めることができずに、回復に向かうターニングポイントを逃してしまう。
もし依存の問題で困ったら、世間体を気にして家族で抱え込まずに、まず精神保健福祉センターや保健所などの窓口に相談した方がいい。「子どもの薬物依存症からの回復はクスリが止まったことがゴールではありません。薬物に依存しなくても生きられるようにするためのスタート地点に、親子が立ったのだと理解してください。」とダルクのメンバーは口をそろえる。
【ジャーナリスト 月崎時央】
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