日本独自の部活動の大会、全国高校サッカー選手権は本年度で97回大会を迎える。育成年代の中でも大きく才能が伸びる10代後半。従来の高体連の部活動に加え、26年目を迎えたJリーグ各クラブのユースでも競技力強化は進んでいる。ただ、日本代表の大半を海外勢が占める中、Jユース出身者が定着していない現状もある。今シリーズは「選手育成を考える」と題し、日本の育成年代に着目する。

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 14年ワールドカップ・ブラジル大会。登録メンバー23人のうち13人が高体連、いわゆる部活動の出身だった。1つ下の年代で見ても、11人が中体連出身。Jリーグ発足とともにプロクラブも選手育成を強化し、ユースから多くのエリートを生み出した。だが、直近のW杯でもなお高体連出身が過半数を占め、ロシア大会出場を決めた昨夏のオーストラリア戦も、スタメン11人のうち7人が部活動の出身である。

 日本代表の年代別代表に目を向ける。U-16、17、19、20に選ばれる選手の割合は、06年にJユース出身者が初めて高体連を上回り、現在では大半を占める。それがA代表になると、逆転現象が起きている。プロクラブの育成機関が整備され、海外のようにエリート集団の熟成が進むとみられたが、現実は異なる。日本協会関係者は「クラブ出身選手がフル代表に定着できないこの現状を分析しない限り、日本代表の躍進はない」と危機感を口にする。

 逆転現象は大学も例がある。関東大学1部リーグの強豪、流通経大の中野雄二監督(55)は「入学当時はユース出身者が力を発揮するが、4年時にはスタメンの約7割が高体連出身の選手になっている」と実情を語った。Jユース出身者が伸び悩む傾向が現場からも見て取れる。

 高体連組が逆転する要因、背景を東京・暁星高の林義規監督(64)に尋ねてみた。Jユースと高体連の強豪校が切磋琢磨(せっさたくま)する高円宮杯U-18プレミアリーグ創設に携わるなど、長く選手育成に尽力してきた人物である。42年間の指導経験からの考察は、こうだ。「違う価値観を持った人と接する時間が大切になる。例えば学校ではいくらサッカーがうまくても、物理の先生に『そんなもの役に立たない』と言われることもある。そして選手権を制する高校以外はどんなに頑張ったって最後は勝てない。そんなある種の不条理を心の奥底で受け止め、きつい練習をしている」。

 自分の価値観と異なる環境や人と過ごす経験、そこで味わう挫折が、苦しい状況を打破する忍耐力や人間力につながっているのではないか。サッカーだけに専念できるJユースになくて、高体連にあるもの。具体的な証拠はないが、技術に勝るJユース出身者を高体連出身者がのちに上回るとしたら、考え得るのは“気持ちの強さ”と表現される目に見えない力の差だ。

 そして今、現場で1つの課題が浮かび上がっている。指導者のあり方だ。Jユースは高体連と異なり、短期間で結果が出なければ配置転換や解雇があり、継続的な指導ができないケースが多い。また将来的にトップカテゴリーの指導を目指す人が多く、育成に腰を据える人材が少ない。報酬がトップに比べて低い経済的要因もあるだろう。

 部活動も似た課題を抱えている。公立校では「働き方改革」の意識が強まり、選手を長時間観察することが減っている。私立校では教諭でないプロ契約の指導者が増え、結果が出なければ交代というJユースと同じ状況も出ている。長崎・国見高の小嶺忠敏元監督(72)や東京・帝京高の古沼貞雄元監督(76)、流通経大柏の本田裕一郎監督(71)ら、長い年月をかけて強豪に作り上げた指導者は70歳を超えた人が少なくない。次世代の監督の台頭がなく、将来的にJユース、高体連ともに指導者不足に陥る可能性はゼロではない。

 まず、プロであるJクラブはJ1からJ3まで、育成システムを考え直す時期にきている。欧州の中堅クラブのようにより育成に力を入れ、ビッグクラブに放出して得た移籍金で経営を成り立たせる考え方を強めるべきクラブもある。Jユース強化がなかなか実っていない現状。長く高校年代のサッカーを支え、今では中体連の選手を“引き抜かれている側”でもある高体連の指導者は何を思うのか。昨年度の全国高校選手権で準優勝した流通経大柏の本田監督に聞いた。【岡崎悠利】(つづく)

流通経大の中野雄二監督
流通経大の中野雄二監督