男子20キロ競歩で、仁川アジア大会銀の鈴木雄介(27=富士通)が世界新記録を樹立した。スタートから先頭に立ち、1時間16分36秒でフィニッシュ。今月8日にヨアン・ディニ(フランス)がマークした従来の記録を26秒も上回った。陸上の五輪、世界選手権実施種目で日本人が世界記録を樹立するのは、2001年女子マラソンの高橋尚子以来14年ぶり。男子では1965年男子マラソンの重松森雄以来50年ぶりとなった。世界選手権(8月、北京)代表も内定し、目標のリオ五輪金も視野に入った。

 北陸新幹線で沸く石川で、快挙達成だ。鈴木が、故郷の能美市で世界新記録をマークした。

 「自分でもびっくり。まさか世界記録までいけるとは思っていなかった」

 最初の1キロで遅れ、一気にペースアップ。「落とさずにいってしまおうと思った」。実家から車で約15分の親しんだ会場。ブレーキがかかる折り返しではない周回コースなど、好条件にも背中を押され“独歩”で快記録が誕生した。

 屈辱が糧だった。2月の日本選手権で新鋭の高橋英輝(22=岩手大)に敗れて2位。1時間18分3秒の日本記録も樹立され「完膚なきまでやられてくやしい」。その1カ月後に爆発した。練習での実力は折り紙付き。昨春からは契約社員となって、より競技に集中できる環境も後押しした。本番での力みがなければ、結果を出せる下地があった。

 鈴木の特長の1つは、世界屈指の美しい歩型。競歩は陸上競技で唯一、判定の要素が大きいが、歩型対策よりスピード強化やスタミナ養成に重きを置ける強みがある。「美しいフォームが僕の理想。美しく歩き抜いて記録を出したかった」とこだわりがあった。

 昨年末、競歩大国ロシアで大規模なドーピング問題が発覚した。五輪金メダリストを含む20人以上が資格停止か調査中。国際舞台でのライバルが減り、鈴木は「クリーンアスリートとしては残念。アスリートの本心としてはチャンス」とにやり。「ドーピングの選手に勝てば、僕はもっとすごい選手ということ。どうせなら僕が勝つまでドーピングがばれなければよかったのに」と言う強気な男だ。

 小学校までサッカーとバスケットボールが大好き。中学にチームがなく、競歩を始めた。今も休みにバスケに親しむ。競歩では膝を曲げたり、両足が宙に浮くことは違反だが「ジャンプもダッシュもします。競歩だけやっていると筋肉が固まる。普段やらない動きをして、体の機能を維持している」。競歩でタブーな動きをレクリエーションで取り入れ、感覚を磨く。

 マイナー競技だと自覚する。「くねくねしてるとか、ばかにされても、笑われてもいい。どういう面白さかは別にして、まず見てもらえれば。では何が面白いか? 世界大会での金メダルが一番面白いでしょ」。記録面では、世界一になった。「一番の夢は本番(リオ五輪)で金メダルを取ること」。まずは8月の世界選手権、北京で表彰台の真ん中を狙う。

 ◆競歩 ルールは(1)両足が同時に地面を離れてはならない(ロス・オブ・コンタクト)(2)前足は接地の瞬間から垂直の位置になるまで真っすぐに伸びていなければならない(ベント・ニー)の2つ。6~9人の審判のうち、3人以上に歩型違反と判定されると失格。五輪、世界選手権は男子が20キロと50キロ、女子が20キロで実施される。男子日本勢の最高成績は、男子20キロで世界選手権6位(13年モスクワの西塔)五輪11位(08年北京の山崎)。同50キロは、世界選手権6位(97年アテネの今村、11年大邱の森岡)五輪7位(08年北京の山崎)。男女通じて世界大会でのメダルはない。