ゴルフはチームスポーツである。

 少なくともPGAツアー選手は、そのようにして戦う。

 全英オープンを連覇しているパドレイグ・ハリントンは、スイングコーチを始め、9人のスペシャリストが各分野を担当している。これはPGAツアーでも極端な例だが、コーチの分業は今やマジョリティだ。

2007年全英オープンで優勝したパドレイグ・ハリントン
2007年全英オープンで優勝したパドレイグ・ハリントン

 日本ではよく子どものころから父親が教えて、プロになってからもスイングのアドバイスを受けるプロも多い。それが悪いというわけではない。メリットもあり、デメリットもあると思う。

 メリットはコミュニケーションが円滑なことだ。「トッププロがたかがコミュニケーションくらいでコーチを決めていいものか」と思う読者もいるかもしれない。しかしこれは、コーチを選ぶ上で絶対に欠かせない要素だ。

 想像してみてほしい。いくら理にかない、優れている理論を持っていても、その伝え方に問題があったり、そもそも人と人との相性が悪かったらどうだろう。PGAツアーで戦うトッププロとて人間だ。相手がどんなに著名なコーチだろうが、相性が悪ければ決して上手くいかない。そうした事が原因でペアを解消するプロも多い。

 しかし一方で、親が教えるデメリットもある。多くの場合、教えている父親はその道のプロではない。たとえば簡単なスイングのアドバイスはできたとしても、専門的なティーチングメソッドの知識がないため、選手を伸ばすための確立された方法論に基づいたアプローチをすることができない。

 最近、日本でもジュニアの育成に熱心なコーチも多く、若いころからコーチに習うというのが浸透してきているように思う。日本のツアーではPGAツアーに比べ、コーチを付けるプロは少ないが、今後増える傾向にあることは間違いない。


●アジア勢躍進の裏にある“アカデミー”の存在


 近年、アメリカのLPGAで大躍進を続けているアジア勢。彼女たちも多くのコーチと契約を結んでいる。プロ入り前から有名コーチに指導を受ける選手も少なくない。

 アメリカではデビッド・レッドベターやマイク・ベンダーといった著名なコーチが、自らの名前を冠したアカデミーを開設しており、そこでジュニアやアマチュアへの指導を行うことがある。

 以前フロリダにあるマイク・ベンダーのアカデミーを訪れ、ジュニアのレッスンを見学したことがある。10人ほどいた生徒はすべてアジア系の子どもだった。

 マイク・ベンダーはメジャーチャンピオンのザック・ジョンソンなども教える全米屈指のコーチだ。そのメソッドを求めて韓国や中国をはじめとしたアジア系のジュニアの親たちが、長期の休みを取ってアカデミーでのレッスンを受けさせる。中にはそのために移住をしてくる家族もいた。

 その中で韓国系のジュニアのレッスンを見ていたのだが、そこで教えている内容はトッププロへのアドバイスと何ら変わりはない。

 「ダウンスイングの軌道が気になる。スイングプレーンから少し外れているので今日はこの点を修正しよう」。これを10代前半のジュニアに指導しているのだ。こういったジュニア時代からの育成への熱の高さが、近年アジア勢の活躍のベースとなっている。

マイク・ベンダー氏(右)と筆者
マイク・ベンダー氏(右)と筆者

●アマチュアが優秀なコーチと出会うために


 アマチュアの人にコーチ選びのとき、最も大事にしてほしいのは、「その人の指導を自分が納得して取り組めるか」という1点に限る。極端な言い方をすると「プレーヤーとしての実績やコーチの経験」よりも「自分が納得のいく説明を受けることができるか」を重視すると良い。

 優れたコーチは決まった型を押し付けるのではなく、豊富な知識の中からベストな問題解決方法を相手に合わせた適切な伝え方で提供してくれるはずだ。

 このような相手目線を持ったコミュニケーションが円滑に取れるコーチを見つけることができれば、上達の道を順調に進むことができるだろう。

 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招聘し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。オフィシャルブログhttp://hiroichiro.com/blog/

(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)