全英オープンが行われたロイヤルトルーンGCの練習場では、実にさまざまな練習が行われていた。

 プロの練習はチェックがメインだ。シーズン中、特に大事なメジャートーナメントの前にみっちり球数を打ち込むようなことはしない。

 そのため練習日のプロのバッグには、何らかの練習器具(チェックするツール)が入っている。選手が帯同するコーチの役割もスイングやアライメントのチェックがほとんどだ。特にメジャートーナメント練習日のコーチの役割は、動きのズレを見つけて、良い状態の動きに近づけることである。スイングを修正する時にはメリットとデメリットの両方が発生するので試合前は極力、副作用の少なく効果的な処方箋を提供する。

●選手が時間を割くパッティングのチェック

 近年では、コーチの指摘や、道具を使用することでスイングチェックをすることがごく当たり前になったので、昔のように感覚ではなく、数値などを使って定量的にチェックをするようになってきている。ツアーの練習場に行くと分かるが、パッティングにかける練習の割合が多い。それはパッティングがショットよりも感覚にズレが生じやすいからだ。

 特定のコーチをつけていない松山英樹はグリーン場でミラーを使って練習していた。ボールを設置し転がす部分以外の底面が鏡になっており、そこにスクエアのラインが何本も引かれている器具だ。ターゲットラインに合わせて置くと、ボールの位置、頭の位置、目線などが確認できる。

 松山は練習日の月曜日に30分以上この練習を続けていた。パッティングに関して、自分の感覚と実際のアライメントや動きに差異が生じているのかもしれない。

鏡の付いた練習器具でパッティング練習をする松山英樹
鏡の付いた練習器具でパッティング練習をする松山英樹

●誰もが持っている、まっすぐなスティック

 プロのキャディバッグに必ずといってもよいほど、入っているのが、ツアースティックと呼ばれる1メートル強の細い棒だ。王道だが、方向性をチェックする上では最も効果的なのが棒を使ったチェック方法である。

 プロはアマチュアのように四角い打席の練習場で練習することはほとんどない。そのためアドレスの向きがいつの間にか狂うことがあるので、常に目標に対してスクエアに立てているかチェックをする必要がある。

 今回のロイヤルトルーンGCのように落としどころが見えづらく、ターゲットを定めにくいコースでは、目標に対してスクエアに立つことがより難しくなるので距離、方向性共に精度の高いショットを放つためにアドレスの向きには細心の注意を払う。

 練習日にはジョーダン・スピースをはじめ多くのプロがスティックを使い、いつもよりも入念に方向性をチェックしていた。

スティックを使用してアドレスの向きを確認するパトリック・リード
スティックを使用してアドレスの向きを確認するパトリック・リード

●最新器具を使い、弾道からスイングを分析する

 近年増えて来たのがトラックマンと呼ばれる、弾道を計測し数値化する装置を使ったチェック方法だ。

 ショットの際に飛球線の後方に直方体の計測装置を設置する。そのボックスが初速やバックスピン量などはもちろん、打ち出し角、サイドスピン量を計測し、着弾するまでの球筋も可視化することできる。軍事用の追跡レーダーを応用して作られたと言われており、打ち出した球から自分の状態をチェックできる。

 また、球筋だけではなくクラブ軌道やフェース面なども同時に確認することができる。今回のように風の強いコースでは、スピンコントロールが勝敗のカギになるため、特にスピン量の確認などをするプロは多い。練習日のドライビングレンジではジェイソン・デイらが計測をしていた。

トラックマンを使用し、スイングチェックを行うジェイソン・デイ
トラックマンを使用し、スイングチェックを行うジェイソン・デイ

●“好不調の波”の原因

 アマチュアでもプロでも好不調の波はある。好調な状態とは、自分の状態がイメージ通りの動きに近く、不調な時は自分の状態がイメージとかけ離れた状態だ。現実の動きと感覚にギャップを埋めるべく、プロたちは入念なチェックを欠かさず行っているのだ。

 しかし、ゴルフではいつの間にか現実の動きと感覚にズレが生じて不調になる。不調になった時にはまずは原因を分析しなければいけない。だが、自分の感覚が既にずれているので自分自身でその原因を特定することは難しいだろう。原因を推測していろいろと試すうちに泥沼にはまり元に戻ることもできなくなって深刻なスランプに陥る。

 深刻な健康状態なら自分自身で病気の特定をするより医療機関で精密検査を受けるべきなのと一緒だ。

●自分で頑張るより客観的な目

 スランプから早期に抜け出すためには、客観的な目が必要だ。それはコーチであったり、練習器具であったり、基本となる練習方法である。それらを通して今の自分の置かれている現状を把握し、原因を特定することがスランプから抜け出す第一歩になる。

 日本中の期待を一身に背負う松山英樹は、全米オープンに続き今回の全英オープンも予選落ちとなった。コーチを付けずに自らの力でPGAツアーに挑む24歳。長いキャリアからすると、まだ三合目というところだろうか。今シーズン、彼が再び輝きを取り戻すことを期待したい。

 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招聘し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/

(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)