日本では女子ツアーの最終戦が終わり、イ・ボミが2年連続の賞金女王に輝いた。一方この時期にもう一つ注目されるのが、来季のシード権をかけた争いだ。賞金ランク50位以内であれば来季の出場権を獲得できるが、50位にわずか3万384円差のベテラン茂木宏美、初優勝まで秒読みとされた香妻琴乃、そして2013年の賞金女王、森田理香子らがシード権を逃した。このようにプロのツアーでは、少し前まで上位で活躍していた選手がシード圏外に落ちてしまうことは珍しくない。


●シード権を逃す理由


 通年でトーナメントに出る選手は約10カ月にわたって毎週試合に出場するため、好不調の波が出る。不調時には試合に出ながら調整をするという難しい作業が必要になるので、この時いかに客観的にスイングを分析し、打開策(時には妥協点)を見いだすかが、1年間上位で戦えるかどうかのカギを握る。

 米PGAツアーではそういったスイングのメカニック部分をすべて自分でまかない修正している選手は数えるほどだ。そもそも不調にならないように日々変化するスイングの微妙なズレを補正し、ベストな状態に保つためにほとんどのトップ選手がコーチを付けて1年間のツアーを戦っているのだ。


●トップ選手が転がり落ちていく現実


 そんなシード権争いのニュースを見たとき、10月にカリフォルニアで見た2人の中堅選手を思い出した。キーガン・ブラッドリーとハンター・メイハンである。

 今シーズンの開幕戦、セーフウェイ・オープン。前シーズンの最終戦からわずか3週間後に行われるこの大会は、トップクラスの選手はたいてい出場をパスする。そんな大会にかつてビッグトーナメントで観客を沸かせた2人がひっそりとプレーしていた。

 キーガン・ブラッドリーは08年にプロデビューし、11年には早くも全米プロゴルフ選手権で優勝し、翌年も1勝挙げるなど順調にキャリアを積み重ねるかに見えた。しかしそれ以降、勝ち星を手にする事はなく昨年は出場27試合でトップ10入りがわずか2試合のみというシーズンを送った。

 ブラッドリーは全米プロを制する前からジム・マクリーンとタッグを組んでいた。マクリーンは、選手を型にはめずにパフォーマンスを最大限引き出すコーチングに定評がある。コーチでありながらツアーに同行しないスタイルを取っており、当時20代半ばだったブラッドリーは物足りなさを感じたのかもしれない。

 全米プロ優勝以降、ジム・マクリーンからチャック・クックにコーチを変えてさらなる向上を目指したが、成績は年々下降し思い通りのシーズンを過ごせずにいる。しかし今シーズンここまで出場4試合ですべて予選通過を果たしており、積み重ねてきた成果が発揮できるかもしれない。

 そしてもう1人、目に留まった選手がハンター・メイハンだ。通算6勝のメイハンはアメリカを代表する選手であったが最近は世界ランク388位に沈んでいる。そのメイハンを長年指導していたのがタイガー・ウッズの前コーチでもあるショーン・フォーリーだ。フォーリーは左1軸のスイングの理論を指導するコーチとして知られている。

 しかし、セーフウェイ・オープン会場では、マット・クーチャーのコーチ、クリス・オコネルと新たなスイングに取り組んでいた。

「もっとヘッドを走らせるべきだ。振り子をイメージしてヘッドを加速させるようにフォローを出した方がいい」

 初日のラウンドを1オーバーで終えた後のアプローチエリアで、オコネルはクラブヘッドの加速についてメイハンにレッスンをしていた。今までのフォーリーの理論とは違うイメージのため、メイハンはかなり違和感を持っているようで、矢継ぎ早に質問をするなど、お互いの関係性を構築している過程という感じだった。

 メイハンはルーティンの際、ハーフスイングで軌道を確認するような動きを入れるなど、型や理論を重視するタイプだ。納得ができないと自ら取り組めない性分なのかもしれない。練習場でのオコネルとのやりとりは随分と長く続いた。結局メイハンはこの試合予選落ち、続く3試合でも予選を通過することができなかった。

オコネル(右)のレッスンを受けるメイハン
オコネル(右)のレッスンを受けるメイハン

●復活できる選手、できない選手


 スイングのビッグチェンジをして復活し、安定的な成績を収められたのはタイガー・ウッズなど数えるほどだろう。セベ・バレステロスやデビッド・デュバルは一時代を築いた天才だが、あらゆる方法を試しても結局スランプからついに立ち直ることはできなかった。ゴルフスイングのシステムを変えるということは相当なリスクが伴うのだ。そして、その歯車を元に戻すには高度なスイング知識と忍耐力が必要となる。

 スランプに陥ったゴルファーが、より良い方法論を探したり、コーチを変えることで問題が解決するとは限らない。次から次にスイング理論を試し、コーチを頻繁に変え、さらに迷宮に入っていくパターンもある。

 ゴルファー自身がスランプによって何を学び、自分をどう変えるべきなのか、その試練の意味を理解するまでこの問題は解決しない。まずは、厳しい現実を直視し、徹底的に自分自身と向き合ってなぜスランプに陥ったのか分析することが重要だ。自分の現状を理解するために専門家の力も必要になるだろう。そして、どん底で地道な練習を行い、見えない出口を信じ続けることができるかどうか。最終的には自分との戦いに勝つ忍耐力が試される。それをスイングの知識、モチベーション面で支えるコーチが必要になるだろう。

ヒーロー・ワールドチャレンジのプロアマ戦に出場したタイガー・ウッズ(AP)
ヒーロー・ワールドチャレンジのプロアマ戦に出場したタイガー・ウッズ(AP)

 今週タイガー・ウッズが復帰する。彼はスイングチェンジやけがから何度も復活してきた。タイガーが試練に打ち勝ち、どん底から這い上がるストーリーを見せてくれることを願わずにはいられない。

 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/

(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)