「最近の若い者は個性がない」

 いつの時代も年配者から、若者に向けられる言葉は同じだ。

 私はまだ30代の若輩者ではあるが、最近の若いゴルファーを見ると本当にそう思う。でもこれは愚痴ではなくスイングの話だ。

 しばしば縁あって、ジュニアや若いプロのスイングを指導する機会があるが、今の若いゴルファーはクセのないスイングをする。それはスイングを覚えた際に使っていたクラブと関係がある。


●進化する道具が、スイングの流行を作る


 ゴルフクラブは基本的に「安定的な動き」を追い求めて進化している。球が楽に上がり、曲がりが少なくなるように道具は進化しているのだ。

 今10代のゴルファーに、最初に使ったクラブを尋ねると、ほとんどが大型ヘッドのウッドと、キャビティバックのアイアンという答えが返ってくる。

 ドライバーのヘッドは460CCではないにしろ、比較的大きく重心距離が長いモデルだったはずだ。重心距離の長いヘッドは、フェース面が開閉しにくく安定した動きをするという特徴がある。そんなクラブでスイングを覚えた“今どきの若者”は、意図的にヘッドを開閉する操作性を必要とされなかった。

 アイアンにも特徴がある。バックフェースをくりぬいて低重心にしたアイアンは、マッスルバックに比べ高い球を打ちやすい。昔のようにダウンブローで球をつぶしてスピン量を多くし、高い球を打つ必要がない。さらにはアイアンのヘッドもウッド同様に重心距離が長いため、フェースの開閉を使って意図的に球を曲げる事が難しい。

 そういった道具の特性からプロのスイングは、昔に比べとてもシンプルになっているのだ。道具がよりストレートに近い球筋に導いてくれるので、プレーヤーには腕を積極的に使うよりも体の動きをメインとしたシンプルなスイングが求められている。

 これらを「若い世代のゴルファーがクラブを操作できなくなっている危機的状況だ!」などと言うつもりは毛頭ない。

 逆にこの個性のないスイングこそが、現状のクラブに最も適した“イケてる”打ち方なのだ。

ピート・コーウェンに腕の使い方の指導を受けるトーマス・ピータース
ピート・コーウェンに腕の使い方の指導を受けるトーマス・ピータース

●個性のない代表格、トーマス・ピータース


 このシンプルなスイングを体現している代表格が、トーマス・ピータースだ。

 ピータースはヨーロピアンツアーを主戦場とする26歳のベルギー人だ。まだPGAツアーでの優勝はないがヨーロピアンツアーではすでに3勝を挙げ、今年のライダーカップでも欧州選抜としてプレーし、初出場ながら大活躍をして注目を集めた。

 コンパクトなトップから腕と体をシンクロさせた、クセのないスイングでビッグドライブを繰り出す。腕と体をバランスよく連動させながら、クラブの力を最大限に使って球をつかまえている。大型ヘッドが生み出す衝突エネルギーを最大化しつつ、ヘッドの開閉を極力抑えてミス幅を少なくするスイングは、まさに現代のクラブにマッチしたスイングといえる。


●体と腕の運動量のバランス


 パーシモンやメタルなどの小さなヘッドでスイングを覚えたプロたちは「腕を積極的に使う」という特徴がある。ジャック・ニクラス、青木功、尾崎将司。彼らは皆、クラブの運動量を最大限に引き出すため、腕を積極的に使ってクラブを振っていた。

 その運動量の引き出し方が選手によって違うため、プロのスイングには個性があったのだ。

ピーター・コスティスに右手だけで振るように指導を受ける吉田
ピーター・コスティスに右手だけで振るように指導を受ける吉田

「今のアマチュアゴルファーは体を使いすぎている」

 世界ランク13位のポール・ケーシーを指導する大御所コーチ、ピーター・コスティスは警鐘を鳴らす。

 アリゾナにあるコスティスのレッスンレンジで、私は右手一本で最大限クラブを速く振る素振りをするように指導を受けた。

「体だけ動かせばクラブが速く振れるわけではない。腕を振れば体はつられて回ることがわかっただろう?何事もバランスが大事だ。」

 先に紹介したトーマス・ピータースを指導するピート・コーウェンも「肩の筋肉で圧を加える」と表現し、腕を使うことの重要性を強調していた。

 デビッド・レッドベターやブッチ・ハーモンなど、60歳を超えた宗匠たちが今でもツアーで引っ張りだこなのは、こうした古き良き知識と新しく効率的な技術を融合させられる見識の広さからきているのかもしれない。


 もちろん道具の進化でスイングは変わる。しかし、腕を全く使わずに体だけでクラブを振るというのは少し極端だ。スイング構築では各要素の構成バランスが重要になる。

 アマチュアは「ボディーターン」や「体重移動」という言葉によって、体の動きや形を必要以上に意識し、過剰に体を使っている人が多い。それによって腕が振れなくなり、ガチガチで苦しいスイングをする人を多く見かける。

 「体がクラブをコントロールすべき」という考えを一度手放し、どうすればクラブを気持ちよく振れるかを考えてみると突破口が見つかるかもしれない。

ピーター・コスティスと吉田
ピーター・コスティスと吉田

 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/


(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)