これまで多くのコーチやその理論を紹介してきた。いずれもPGAツアーのプロが取り入れる理論や、一流コーチのメソッドなどである。スイング理論はクラブやボールが進化し、それに合ったスイングが求められることで時代によって変化するが、それでも現状多くのスイング理論が混在している。


●全てのスイング理論は正しいのか?


 ゴルフのキャリアが長い人であれば、どの理論も内容を理解すれば「ああ、なるほど」と納得するだろうが、果たしてこれらはすべて「正しい」のだろうか。私も実際にレッスンをするとき、こういった質問を受けることがある。

 「吉田さんはたくさんのスイング理論を知っているけれど、それって全部理にかなっているんですか?」という具合だ。

 ゴルフは再現性のスポーツと言われている。目的もティショットをより遠くに飛ばし、2打目以降はよりピンに近づけるという部分では同じだ。にも関わらず、理論がいくつもあるのはなんだか矛盾をしているように思えるかもしれない。


●スイング理論は組み合わせる必要性がある


 結論から言うと、スイング理論はほとんどすべてが正しく理にかなっている。ではなぜ多くの理論が存在するのか。

 ポール・ケーシーのコーチを務めるベテランコーチのピーター・コスティスは、あくまでも一般的な話と前置きをした上で、スイング理論についてこう述べている。

 「スイングのメソッドは、20〜35%のゴルファーにしか当てはまらない。だからメソッドに人をはめるのではなく、人にメソッドや理論をあてはめるようなレッスンが必要だ」

 人はそれぞれ身体能力や骨格、そしてゴルフキャリアが違う以上、特定のメソッドですべてのゴルファーのスイングを改善するのは、現実的ではないという。

 「だから私は○○メッソド、○○理論というのがあまり好きじゃない。いいコーチとは、多くの引き出しを持ち、悩みを抱えたゴルファーに対してその引き出しをカスタマイズしてはめていくことのができる人だ」

アーロン・バデリー(ロイター)
アーロン・バデリー(ロイター)

●一つの理論だけを取り入れる弊害


 コスティスの言うように特定の理論を当てはめるだけでは問題は解決しないことが多い。それどころか逆に現状のスイングを壊して、悪い方向に向かってしまうことも多い。だからこそコーチたちは多くのスイング理論や体の仕組みを学び、選手に対して最適な形に組み合わせてティーチングを行っている。

 しかし中には新しいスイング理論を自ら積極に取り入れ、スイング改造を行う選手もいる。

 アーロン・バデリー。彼はアダム・スコットと同世代で同じオーストラリア出身の中堅プロだ。昨年バーバゾル選手権で久しぶりの優勝を果たしたが、デビュー当時から将来を期待されてきたバデリーにとってこの5年ぶりの優勝は順調なキャリアとは言えないだろう。

 低迷したきっかけの一つが、スイング改造だ。バデリーは「スタック&チルト」と呼ばれるスイング理論を取り入れたが、思うような成果が出ずに元に戻した。その結果、スイングを戻しても調子が上がらない状態になった。「スタック&チルト」は左サイドに軸を保って、スイングの安定性を目指すという理論だが、これ自体が誤っているものということではない。理論を自分にはめるのではなく、自分を理論にはめてしまったことで天性の才能が失われてしまった。

 スイング改造を行う際には、新しいものを取り入れることのリスクを考える必要がある。スイング中の動きは連動していて、一つずれると必ず他にも影響を及ぼすからだ。時にその自然な連携が失われ戻らなくなることもある。

 今季復活が期待されるタイガー・ウッズも、バデリー同様に左サイドに軸を保つ理論に自分をはめてきた。だが、今回復活したウッズのスイングは理論を自分に最適な形であてはめようとしている。自分の体とスイング理論を理解し、自らのスイングに何を取り入れるべきかを考えながらスイング構築をしてきた40代のウッズに期待したい。


●型への正しいはめ込み方


 近年、自ら考案したスイング理論に名前を付け、その理論をスッポリと当てはめるようなティーチングが増えている。そうしたほうがメディアも取り上げやすく、その理論が自らのアイコンにもになるという商業的な側面もある。しかも教える側も、型にはめるほうが教えやすい。

 コスティスの言うようにプロに対するティーチングの場合、それだけでは問題を解決することが難しいが、逆にアマチュアの場合は特定の理論の型にはめたほうが、上達が早い場合が多い。

 それはほとんどのアマチュアが、型が決まっていないことで、スイングの再現性が落ちてしまっているからだ。

 まずはインパクトゾーンでの再現性を高めるため、20ヤードのアプローチの練習を繰り返して一つの型を決めると良い。

 そうすることでどの番手にも共通する、セットアップやインパクトゾーンでの体の動き、クラブフェースのコントロールを覚えることができる。

これがどの理論の土台にもなるので、新しいことを試してみようとしている人は、今一度20ヤードのアプローチで地固めをしてから試してみてほしい。

ピーター・コスティス氏(右)と筆者
ピーター・コスティス氏(右)と筆者

 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/


(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)