9月7~10日の期間、日本で初めてのPGAチャンピオンズツアー「JAL選手権」が開催された。トム・ワトソンをはじめ、ジョン・デーリーやコリン・モンゴメリーなど、かつてPGAツアーを沸かせた名手たちが、日本のシニアプロとともに華麗な技を披露した。

 こんな風に書くと、昔の有名選手を集めてエキシビジョン的に開催された大会を想像してしまいがちかもしれない。しかしツアー会場に行けば、すぐにその認識が誤りであったことに気が付く。


●エキシビジョンではない真剣勝負


 ほとんどの選手が、レギュラーツアーと全く変わらない時間を費やし練習に励む。賞金総額も日本オープンよりも多い250万ドル(2億7500万円)と、エキシビジョンの要素は見当たらない。そんなチャンピオンズツアーには、レギュラーツアーで輝かしい成績を残したプロ以外にも、再起をかけて戦っているプロたちがいる。

 50歳以上の参加選手たちのゴルフキャリアは長い。10代で始めていれば40年近くの経験を持つことになる。当然だが、彼らがゴルフを始めたときはウッドはパーシモンでアイアンはマッスルバックしかなかった。ボールも糸巻きで、現代の道具とは似て非なるものだった。製造技術の進化とともに、ギアは劇的に変化をしていくが、それに適応しながら戦い続けてきたのが、このシニア世代の選手たちだ。


●パーシモンからの脱却


 「我々の世代は大きなフックを打つことで飛距離を伸ばしてきた世代だ。でも今は大きなヘッドとシャフトのしなりがボールを飛ばしてくれる。いいパフォーマンスを出すためには、そうした道具に適応する必要がある」

 こう語るウィス・ショート・ジュニア(53)は、地元テキサス州のブルース・スミスというコーチとともに、40代後半からシニア入りを見据えて強いドローからストレートボールに球筋を変えるためのスイング改造を行っている。

 練習場ではスティックを使い方向性を確認しながら、腕の動きが大きくなりすぎないように1球1球確認をしながら打ち込みを行っていた。火曜日の練習日は秋の訪れを感じさせる冷たい雨が降っていたが、その中で帽子もかぶらず一心不乱にクラブを振り続ける姿は、さながら下部ツアーに参戦して間もない若手選手を思わせるほどエネルギーにあふれていた。


雨の中練習するウィス・ショート・ジュニア
雨の中練習するウィス・ショート・ジュニア

●シニア選手がコーチをつける理由


 ウィス・ショート・ジュニアのように、シニアになってもコーチをつけている選手は少なくない。

 「ゴルフスイングは悩みが尽きないものだ。年齢や経験を積んだからと言って達観する事はないから、いつまでも改善をし続ける事が大事なんだ」と言うのは57歳のトム・バイラルだ。今回のJAL選手権では成田ゴルフ倶楽部の難セッティングを攻略し3日間で9アンダーをたたき出し、9位タイに入った。


キャディーにスイング動画を撮影させてチェックするトム・バイラル
キャディーにスイング動画を撮影させてチェックするトム・バイラル

 バイラルは1989年にPGAツアーで1勝を挙げるも、優勝はその1勝のみ。トッププレーヤーとしてPGAツアーに定着することはできなかった。そんなバイラルは現在ジム・マーフィーという、アメリカのゴルフ誌のトップ100ランキングにノミネートされるコーチとタッグを組む。

 「尽きないスイングの悩みを解消するには、コーチに頼るのが一番だ。自分だけでは解決できることに限界があるからね」

 経験を重ねても第三者の目が必要な理由は変わらないようだ。


●シニアが若者に勝るものとは


 ウィス・ショート・ジュニアやトム・バイラルと同様にPGAツアーには定着できなかったが、今年のチャンピオンズツアーで台風の目となっている選手がいる。現在、4勝を挙げ賞金ランク2位につけるスコット・マッキャロンだ。圧倒的な強さを見せる賞金ランク首位のベルンハルト・ランガーの背中を追う1番手である。


賞金ランク2位につけるスコット・マッキャロン
賞金ランク2位につけるスコット・マッキャロン

 マッキャロンも先述の2人と異口同音に、シニアプレーヤーがコーチを付ける必要性を感じている。

 「確かに我々には経験があるが、それはゴルフのすべてじゃない。私が知らないことを知っている人がいれば、その人に頼るのは当然のことだと思うよ。それに我々は若い選手のように長い時間、多くの球を打ち続けるという事ができない。だから効率的にスキルアップする必要があるんだ。それには知見を持ったコーチとタッグを組むことが近道だと思っている」

 マッキャロンのコーチはE.A.ティシュラーという理論派だ。ティシュラー自身もシニアプレーヤーの年代だ。

 「彼らは経験を積んでいる分、非常に忍耐強い。その忍耐力が彼らのスキルアップの糧となっている」とティシュラーは言う。

 筆者は年齢を重ねたからと言って、上達が難しくなるとは思っていない。ゴルフ上達の過程を理解し、適切な方法を選択し、忍耐力を持って取り組めば必ず上達する。もし年齢を理由に上達のモチベーションが下がっている人がいたら、まずは自分の武器になるものを探してみてほしい。それは若いプレーヤーが持ち合わせていない、強みとなるはずだ。


ティシュラー氏(右)と筆者
ティシュラー氏(右)と筆者

 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。欧米のゴルフ先進国にて米PGAツアー選手を指導する80人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を直接学び研究活動を行っている。書籍「ロジカル・パッティング」(実業之日本社)では欧米パッティングコーチの最新メソッドを紹介している。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/


(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)