13年マスターズ覇者で、元世界ランク1位のアダム・スコット(35=オーストラリア)が、今年の第80回日本オープンゴルフ選手権に出場するため、兵庫の六甲国際ゴルフ倶楽部にやってきた。185センチの長身で9頭身くらいあるのではないかと思う小さな顔。いつも背筋の伸びた姿勢や、洗練された立ち振る舞いにおっさんの私でも、うっとりとしてしまうプロゴルファーである。

 大会が始まる2日前の火曜日に、スコットが日本のジュニアゴルファーのために、自分の経験談や技術、メンタル面の話を聞かせるセミナーを開いた。この大会で大活躍して、史上最年少でローアマチュアに輝いた、広島国際学院高2年の金谷拓実(17)も熱心に聞いていた。技術、メンタル面の話では、私も参考になったのは「ゴルフはミスをたくさんするスポーツだ。そのミスをしたことを後悔するよりも、次のショットをどうするかに集中するんだ」というマスターズチャンピオンの言葉だった。金谷もこの言葉には響くものがあったと言っていた。

 約1時間の“スコット先生”の話は続いた。JGAのナショナルチームの日本を代表する若きゴルファーに、これからプロになるにしろ社会人になるにしろ、その心構えをスコットが説いた。

 「私は、サインを求められたら断らない。そして、だれもが“ありがとう”と言い、する方も“ありがとう”と返すだろう。しかし、私は“マイ・プレジャー”(私の喜びです)と言いいます」。これを、聞いた時、私は鳥肌が立つほど感動した。こんな世界の超一流のスポーツマンが、ファンに感謝の気持ちをいちいち伝える。これは、常に思っていなければ出てこない言葉であろう。

 日本の男子ツアーの選手もファンに対してサインなど一生懸命にしている姿はツアー会場で目にする。しかし、スコットが言う「私の喜び」だとまで思っているプレーヤーが、何人いるだろうか。女子ツアーより残念ながら試合数を見ても少なくなり、人気も落ちていると言われる昨今の男子ツアー界。1980年代、AON全盛時で現在の倍の試合があった頃を知る私は残念で仕方ない。スコットのような思いを持つ選手が多く現れれば人気回復につながっていくと思う。

 2年連続出場したスコットは、通算5アンダー283の7位で終わった。圧倒的飛距離と高弾道のアイアンショットに度肝を抜かれたが、長尺パターから35インチのノーマルパターへ変更している最中だけに、パットには苦しんだ。それで、この成績だから驚くべきことだ。賞金の520万円は、全額日本の被災地かジュニアゴルファー育成に寄付するというから、どこまでも“男前”だ。

 スコットは盛んに日本オープンを「ナショナルオープン」と言い、その国で最高の大会であると表していた。日本が好きなスコットは、来年も出場したいと言い残して帰っていった。「松山、石川の2人が出ていないのは、それぞれ事情があるのだろう」としたが「来年は2人を連れてくるよ」とウインクした。

 今年の日本オープンは抜けるような秋空が続き、さわやかな風が吹き抜けた。この天候は、アダム・スコットが六甲に連れてきたような気がしてならない。そう思わせるほどナイスガイなプレーヤーだった。【町野直人】