「帰ってくるのは、やっぱり、今このタイミングではないなと思っています」

 米国か日本か。来季の軸足をどこに置こうとしているのか。有村智恵(27=日本ヒューレット・パッカード)の意思は明確だった。10月29日、今季国内ツアー5戦目となる女子ゴルフの樋口久子Pontaレディース開幕前日のことだった。

 「この3試合で日本のシードを取れるなら取りたいですよね」

 一足先に主戦場である米国でのシーズンは終わりを告げていた。下部ツアー賞金ランク15位。10位までに与えられる来季シード権には届かなかった。日本に目を移しても、12年日本女子プロ優勝による3年シードが今年で切れる。この時点で国内参戦は残り3試合となっていた。

 「どっちかのQT(予選会)を受けなければいけないという状況だったら、アメリカのQTを受けます」

 “職場”を確保するということだけを考えれば、日本のQTという選択肢は現実的なのかもしれない。しかし、昨年はね返されたQスクール(30日開幕、米フロリダ州LPGAインターナショナル)での来季米ツアー出場権獲得を優先したいという。米国にこだわる理由がある。

 「やっとコーチだったり知り合いだったり、アメリカでつながりというか、輪ができ始めたところなので…。そういう人たちに、もっといろんなことを学びたいなという気持ちがあります」

 今年6月から元世界ランク1位のルーク・ドナルド(英国)も師事する米国人コーチ、パット・ゴス氏に指導を仰いでいる。インターネット検索で自分のスタイルに合いそうなコーチとして探し当てたというから興味深い。

 「アメリカって『とりあえず当たってみて、ダメならまた考えればいいじゃん』みたいな文化が強いんですよ。だから、コンタクトだけでも取ってみようかなと思って、彼が所属するアカデミーのサイトにあったアドレスにメールを送ったんです。『自分はこういう人間で、LPGAでプレーしていて、あなたの指導に興味があるので、もし良かったら…』という感じで」

 最初は返事すらもらえなかった。2、3回メールをして、本人から連絡が来た。すぐにシカゴに向かい、二人三脚の日々が始まった。シカゴ近郊で行われる試合の合間に立ち寄ってチェックしてもらい、直接見てもらえない時は動画を送って助言を求める。教わったのはショートゲームだ。

 「かなり変わりましたね。最初の週なんて、ホントに何個変えられたか分からないくらい。グリップもアドレスもラインの見方も、もちろんストロークもかなり変えられましたし」

 日本ではツアー屈指のショットメーカーとして鳴らしたが、ショートゲーム、特にパッティングが米国での戦いで苦しむ要因となっていた。生命線のショットまで乱れる悪循環にも陥っていた。

 「自分の中でパッティングを含めたショートゲームというのは弱点だったので…。そこは徐々に良くなっていて、今までなら『またボギーだ』と不安に思っていたところで『この辺につければパーは取れるかな』と思えるようになったり、余裕は出てきました。まだまだ不安定だけど、こうやっておけばという目安ができたので、いい練習もできるようになってきました」

 それでも、シードには届かなかった。話を聞いた直後の樋口久子Pontaレディースもカットラインギリギリで予選を通過し、最終的に通算5オーバーの40位。日本での輝きを取り戻し、進化を模索する道は、まだ半ば。ただ、感じる確かな手応えが、米挑戦を続けたいという思いを後押しする。

 「一番きつかったのが、何も見えなかった時。何をどう直していかなきゃいけないのかも分からなかった時期が、精神的にもすごくきつかった。今は調子が良くなくても、結果が出てなくても、やることが見えている。人からは見えない部分かもしれないですけど、自分の中ではかなり違うので、それが、今楽しめている理由の1つですね」

 楽しめている-。そう笑って振り返るが、もう1つ大きな決断を下してシーズンに臨んでいた。1人でツアーを転戦すること。心身ともにタフさが求められる下部ツアーを戦い抜いた。

 「今年が一番、アメリカツアーで戦ってきたなという気持ちになっています。去年まではマネジャーさんとかトレーナーさんが日本と同じようにセッティングしてくれていたので、アメリカでやり抜いたという気持ちにはなれなくて…。ゴルフに対する自信ではないんですけど、自分の中で(問題を)解決する自信にはつながっていると思います」

 ゴルフで不振にあえいだ。コース外でも、本来ならしなくていいような苦労を重ねてきただろう。それでもなお、米国で戦いたいという。モチベーションはどこにあるのか。

 「私たぶん、大変なのが好きなんだと思います。日本の環境の良さが落ち着かない時もあるんです。楽しいんですけどね。何か言えば全部出てくるし、クラブハウスの玄関を出たら(迎えの)車のドアまで開いてるし(笑い)。だから、今まで自分がいい環境にいすぎたというだけで、あまり大変だと思ったことはないですよ」

 プレーに集中できる日本ツアーの素晴らしさを再確認しても、米ツアーへの思いは揺らがない。世界トップレベルが集まる場所でゴルファーとして学びたい。厳しい環境で人として成長したい。何より、日本ツアー通算13勝の意地がある。

 「やっぱり、もっと向こうの試合で頑張りたい」

 異国の地での戦いは、まだやめられない。【亀山泰宏】