プロレスラーに両肩を捕まれて揺さぶられたら、こんな感じか-。USJのスパイダーマン・ザ・ライドがこんな感じやった-。感覚的に、それが数十秒続いた気がする。

 KKT杯バンテリンレディースの中止が決まった16日未明。熊本で「本震」が起きた時、震度6強やった大津町にあるホテルで寝てた。「このまま揺れ続けたら、ホテルは壊れる。そしたら下敷きになって、死ぬな」と真剣に思った。

 1995年の阪神・淡路大震災の時は、大阪府茨木市の自宅で寝てた。ベッドで体が跳ねて起きた。今回と単純比較はできひんけど「死」は考えへんかった。

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 選手の多くは「本震」の前に、熊本を出た。良かった。女性が、まさかのタイミングであんな激震に見舞われてたら、どないなってたことか…。

 「前震」が起こった直後の14日の夜。アン・ソンジュはホテル前の道に座り込んどった。ホテルの毛布にくるまって、オロオロしてた。目が合うと、泣きそうな顔で首を横に振っとった。

 「前震」から一夜明けた15日午前。熊本空港CCに荷物を取りに来た一ノ瀬優希のうつろな目も忘れられん。益城町に隣接する御船町の自宅で、被災した。家にヒビ入ったって言うてた。今季から選手会長的立場のミーティング委員長やから、囲み取材で、その立場を踏まえた質問も出た。少し考えた後で「…今は正直何も考えられなくて…」と声を振り絞ってた。

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 21日であれから1週間がたった。22日、地震後初の女子ツアー、フジサンケイレディースが開幕する。上田桃子は悩み抜いた末、出場するという。本の家が被災し、家族を避難所に残して。「私にもできることがあると信じて」-。熊本出身やない選手も、同じ気持ちなんやないかな。ゴルフしてる場合なんかな? 避難所で過ごす人の気持ちを考えたら…。悩みの根っこは、きっとそのあたりにあると思う。

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 それでも、胸を張ってプレーしてほしい。一般人以上に強い発信力がある。ましてや、自分たちもあの恐怖を味わったんやから。ゴルファーはゴルフをしてなんぼ。プロは世間に訴えかけてなんぼ。ゴルフができる喜びを感じながら、全力で、必死に、時に笑みも浮かべて。その姿が被災者の心に少しでも響いたら、十分やと思う。「風が吹いたらおけ屋がもうかる」てなことわざもある。

 女子ゴルファーのみなさん、ほんまに頑張ってください。【加藤裕一】