トム・ワトソンはすごい。

 64歳で全英オープンで予選を通過した。61歳やった11年大会、62歳やった12年大会に続いて、大会最年長予選通過記録をまた更新した。ちなみにメジャー全体の記録は79年全米プロのサム・スニードで67歳。上には上がおる。だからっちゅうてワトソンの記録が色あせるもんではない。

 第2ラウンド。10番をボギーにして通算3オーバー。そこから残り8ホールを1バーディー、ノーボギーでカットラインをぎりぎりクリアした。ギャラリー、めちゃくちゃ盛り上がったやろなあ。

 「僕はもう飛ばないからね。いかに正しい距離のショットが打てるか。チェスと同じ。ボールをこの場所に打って、次はあの場所に…。それがどれだけきっちりできるかなんだよ」

 なんせ全英で5勝もしてる。だから、リンクスは相性がええと言うか、自分のゴルフの波長とよっぽど合うんやろう。ほんでも、64歳でっせ? やっぱり普通やない。

 ワトソンの優勝を、1度だけ取材した。招待選手で出場した97年のダンロップフェニックス。当時48歳やから、レギュラーの晩年。ほんでも、ショットのキレは抜群やったんは覚えてる。ただ、ゴルフ以上に印象深いことがあった。

 その大会は開幕前に恒例行事があった。出場選手によるコース近くの施設への慰問。つまりボランティア活動。欧米の選手は得てしてその手の活動に積極的なもんやが、ワトソンはいの一番に立候補して、他の海外招待選手を率いて出かけたらしい。「一応取材しとこか」と軽い気持ちで施設に電話した。施設の代表者に話を聞いた。

 「あの~、ワトソンさんがそちらを慰問されたと聞いたんですが」

 「はい。いらっしゃいました。もう大変よくしていただいて、本当に感激いたしました」

 「感激ですか?」

 「それはもう…」

 施設は難病患者の療養所やった。大部分の患者が四肢が不自由で、車いすの生活を余儀なくされているらしかった。ほとんどの人が拍手もできない。うまくしゃべれない。当然、自分の意思を、思いをうまく伝えられない。

 「顔がよだれや鼻水でぐちょぐちょだったりする。表情も…。世間一般の方から見れば正直『汚い』と感じると思います」

 ワトソンはそんな患者1人1人の前に座り込んで、笑顔で語り掛け、抱き寄せ、ほおずりを繰り返したそうだ。

 「ごく普通に患者と同じ目線になって、楽しそうに接してくださった。事前に人格者だと聞いていましたが…こんな方がいらっしゃるんだと驚きました」

 いかん。この話を思い出すと、泣きそうになる。

 「帝王」のニクラウスがいて、その後継者と目されて「新帝王」と呼ばれた。その称号はゴルフの実力とともに、人柄が評されてこそのもんやと聞いたことがある。

 とにかく、トム・ワトソンはすごい。ほんでもって、かっこええ。【加藤裕一】