男子ゴルフの松山英樹(23=LEXUS)が、年男の1年でいよいよ世界の頂点に迫る。15年は米ツアーでトップ10が8回。世界の舞台で安定した成績を出し続けた。しかし本人は、ツアー戦、そして海外メジャーで勝てなかった1年を「不満」と言い切る。勝てる選手になるために、どう変わるべきか。そしてゴルフが112年ぶりに実施競技に復帰するリオデジャネイロ五輪への複雑な思い。日刊スポーツの単独インタビューに応じ、1時間近く熱っぽく語ってくれた。【取材・構成=塩畑大輔、亀山泰宏】

 松山は15年、世界ランク14~15位を保ち続けた。競技が違うが、テニスの錦織の23歳当時は15~20位。今後錦織同様に世界の頂点に迫ることを予感させた。しかし本人は首を振る。

 松山 勝つのは難しいなと思い知らされた1年でした。14年にザ・メモリアルトーナメントで勝った時は、すごく自信があった。日本で勝てていたし、米ツアーでもシーズン序盤から優勝争いしていたので。今はそういう自信がない。1つ勝った後、すぐに勝てなかったのが大きい。

 昨年11月のダンロップフェニックスで2位に終わった際に、感じたものがある。

 松山 最終日に一緒に回った金庚泰は、序盤からボギーをたたいていたけど、終盤に連続バーディーが来る。勝っている選手は、そうやって勝負どころで流れをつかめる。それが今の自分にはない。米国だけでなく、日本でも勝つのは難しい。そう感じました。

 試合の流れをつかむ。そのカギとして、松山は「パット力」を挙げた。

 松山 試合をつくるのはショット。これまで練習もショット中心でやってきた。でも試合の流れをつかむのはパター。入る時は、人並み以上に入るという自信はある。プロになったばかりの頃は「なんでお前はどこから打ってもパターが入るんだ」と言われていた。それが今はパターが決まらず、試合の流れがつかめない。それが悔しい。

 ショットはスイングの乱れなど、問題がはっきり見て取れる。パターはその点、問題がはっきりしない難しさがある。

 松山 だからこそ、いつも同じようにセットアップ(構えを)しないといけない。それができている選手は強い。ジョーダン(・スピース)は、いつも同じような感じで打っている。それが僕はバラバラ。それが差かなと思いますね。悪くなると、何が原因なのか探りたくなって、パッティングをコロコロと変えてしまう。それで余計に悪くなる。今はとにかく「変えない強さ」がほしい。

 自信が必要という「心」、パットが課題という「技」に加え、松山は「体」にも課題を感じている。

 松山 トレーニングが足りなかった。一昨年は相当追い込んだので、正直少しモチベーションを保つのが難しくなった。勝てなかったから、やっぱりトレーニングは必要。それがはっきりしたのはよかった。やらないと勝てない。

 米国という環境に慣れる。そういう点では、大きな進歩があった1年だった。

 松山 フロリダに家を買いました。まず、遠征で持ち運ぶ荷物が半分に減った。これは大きい。今までは1年分とかを持ち歩いていたので。それとゴルフ場の中なので、いつでも練習ができる。(石川)遼の家も近いんですよ。池を挟んでいるので、乗用車だと20分ですが、船だと5分もかからない。いつでも勝負できるように「いっそクルーザーでも共同購入しようか」という話もしてます(笑い)。

 すっかり順応し、家族が日本で待つ進藤キャディー、飯田トレーナーらを帰国させて、1人で米国暮らしをする時期まであった。

 松山 もう、特にストレスはないですよ。英語はまだまだですけど、ヘタなりにいろんな選手とコミュニケーション頑張ってます。ダニー・リーとは、彼がダンロップフェニックスに出ると決まって「サケ・ボム!(※注)」「いいよ、やろう」と盛り上がりました。実際、宮崎の街を案内しましたよ。試合の週だったので、そんなにムチャ飲みしたわけじゃないですけどね(笑い)。

 すべては勝つために-。いくつかの修正を施して臨む16年、世間はリオ五輪での活躍にも期待する。

 松山 でも、やっぱり五輪にどう臨むのかというのは、すごく悩ましい問題です。たとえばマスターズは、準備期間が長いので、いくらハイレベルで勝つのが難しくても、楽しみだなと思える。でも五輪は、海外メジャーの全米プロが終わってから、準備期間が1週間しかない。そこで気持ちを上げるのは難しい。

 ゴルフファン以外は、五輪に海外メジャー以上の価値を置くであろうことも、重々承知している。だからこそ、生半可な覚悟では臨めない。悩みは深い。

 松山 国民の期待を背負うのにふさわしい準備ができるのか。そこは難しい部分がある。メジャーがあるからこその難しさ。柔道などで言えば、五輪の直前に世界選手権があるようなもの。それを1週おきにやっていくのは、とても厳しいことだと思う。

 いずれ重圧と向き合う必要があるとは考えている。東京五輪があるからだ。

 松山 やはり自国開催は特別です。どんな状況であれ、必ずモチベーションは上がる。絶対に勝ちに行く。そういう意味で、今回五輪を経験できれば大きいのは確か。どういう重圧がかかるのか。今まで感じなかったものもあると思う。失敗すれば、何を書かれるか分からない。そういう重圧は、五輪に出てみないと分かりませんから。

 (※注)ダニー・リーお気に入りのフレーズで「一緒にガンガン飲むぞ!」という意味。大好きな映画「SAKE-BOMB」で、ビールに日本酒のショットを落とし、一気飲みするシーンがある。

 ◆松山英樹(まつやま・ひでき)1992年(平4)2月25日、松山市生まれ。高知・明徳義塾高、東北福祉大へ進み、11年マスターズで日本人初のベストアマ。大学4年の13年4月にプロ転向し、日本ツアー賞金王を獲得。日本ツアーは6度優勝。13年10月から米ツアーに本格参戦し、14年6月のザ・メモリアルトーナメントで初優勝。昨季(14~15年)の米ツアー賞金ランキングは15位、今季(15~16年)は現在26位。世界ランキング15位。181センチ、90キロ。