大山志保(38=大和ハウス工業)が「第2の故郷」熊本に勝利をささげた。3打差6位から出て、4バーディー、ノーボギーの68で通算11アンダー205の逆転勝ち。今季初勝利、昨年6月のヨネックス・レディース以来の通算17勝目を挙げた。熊本中央女高(現・熊本中央高)時代など7年間を熊本で過ごしており、優勝賞金1440万円全額を地震の被災者支援のために寄付すると表明した。

 大山は熊本のために勝った。「勝ちたいと思って勝てたのがうれしい」。06年に賞金女王になったベテランにとっても、特別な勝利だ。目標のリオデジャネイロ五輪出場のためだけではない。熊本地震の被災地と被災者のために勝ちたかった。

 宮崎の親元を離れて熊本中央女高に進んだ。父晃さん(76)によると寮でゴルフ部員は1人だけ。「練習で帰りが遅く食事も1人、(入浴も)最後で風呂掃除して、つらいこともあったはず」(晃さん)。日大を出た後は熊本空港CCで清元登子プロに師事。練習中は私語や緩慢な態度は厳しく叱られた。「(清元)先生の車が坂を上がってくると『先生が来た! 練習、練習!』ってなったのを、つい最近のように思い出します」。一番苦しかった修業時代。「だから今の自分があると思います」。

 14日の地震は中止となったKKT杯バンテリン・レディース(熊本空港CC)のため宿泊していたホテルで経験した。当初から東日本大震災時と同じ500万円を寄付するつもりだった。出場を迷った末、戦う気持ちを固め「優勝したら全額寄付しよう」と決めた。

 初日2位発進の活躍に友人から「(大山の)ガッツポーズを見て元気が出た」と連絡があった。同時に洗濯のためにコインランドリーに5時間並ぶという過酷さも知った。「被災しているのに『元気になった』と言ってくれる優しさがうれしくて。ボギーなんかでくよくよしてられない。前を向いて」戦い抜いた。

 寄付金の使い道について「1日も早く元の生活に、皆さんに笑顔が戻るように。必要なものはたくさんあると思う。少しですけど、気持ちが届けば」と思いを明かした。この日は18番でバーディーを奪い、プレーオフを覚悟していたころ、アンがダブルボギーとして勝利が転がり込んだ。宮崎の陽光のような朗らかさと、「火の国」熊本の強さを併せ持つ大山は、これからも多くの人に力を届けるはずだ。【岡田美奈】

 ◆大山志保(おおやま・しほ)1977年(昭52)5月25日、宮崎市生まれ。高2で日本女子アマ制覇、日大4年時に日本学生、アママッチプレー優勝。00年プロテスト合格、03年ベルーナ・レディースでツアー初優勝、06年5勝して賞金女王に。09年米ツアー挑戦もひじの故障で離脱。11年マスターズGC・レディースで復活優勝。昨年全米女子オープンで5位と活躍。168センチ、62キロ。