<大相撲九州場所>◇3日目◇15日◇福岡国際センター

 東前頭9枚目の若の里(35=鳴戸)が、初日を出した。東前頭10枚目の黒海(30)を上手投げで破った。15歳で入門してから20年間、薫陶を受け続けた亡き前鳴戸親方(元横綱隆の里)の教えを守り、相撲に集中する姿勢を貫いた。

 師匠の教えは、忘れない。若の里は、勝っても表情を変えなかった。支度部屋に戻り「特に変わったことはないです。いつもと同じ気持ちで土俵に上がっていますから」と口にした。唯一違うのは、部屋に戻ってあいさつしていた恩師がいないこと。「だんだん、慣れていかないといけないと思います」。この時だけ、寂しさをのぞかせた。

 部屋の関取衆で1人だけ、白星がなかった。右上手で黒海を転がし、連敗を止めた。7日に前鳴戸親方が死去。福岡から千葉に戻り、通夜と告別式に参列した。稽古を2日間休んだが「ずっと稽古は積んできていますんで、稽古不足と思っていません」と言った。感傷にも浸らない。「相撲のことだけ考えて、集中するだけ」と師匠の教えを口にした。

 師匠と同郷の青森から上京し、中卒で入門。当時30代だった元横綱は、まわしを締めて稽古場に立っていた。何度も胸を借りた。鉄拳制裁も受けた。21歳で新十両、24歳で新入幕、大関挑戦も経験した。師が健在だった今場所前、こんなことを言っていた。

 「35歳にもなって、幕内で取れるのは、稽古をやってきたから。稽古も環境も苦しいけど、鳴戸部屋だから取れていると感謝している。15歳から、これが当たり前。苦しいと思ったことはない。親方は厳しい方だけど、師匠と弟子なので当たり前。師匠の部屋では、いつも正座。師匠の足音が聞こえてくると、今も緊張が走ります」

 気が休まる暇はないが「まげがあるうちは、それでいいと思っている」とも続けた。勝っても相手を思って笑わず、負けても明日があるから取り乱さない。これが、体に染みついて離れない、師匠の教え。弟弟子の稀勢の里には、背中で語るだけ。今日4日目からも、鳴戸の弟子の誇りを胸に、土俵に立つ。【佐々木一郎】