大関稀勢の里(27=田子ノ浦)が四股の“改革”に取り組み始めた。2日、都内の田子ノ浦部屋で稽古を再開し、元横綱貴乃花のように、つま先まで高々と上げる四股を踏んだ。膝を曲げて、足を頭より上げなかったこれまでの四股からの変化。鶴竜に先を越された綱とりへ、何かを変えようとする模索が始まった。

 四股の途中だった。片膝を上げていた体が突然、そのままの姿勢で止まった。しばらく熟考の後、動き始めると、曲げていた膝を下ろすことなく、さらに伸ばし始めた。つま先を高く、頭上に来るように。これまで自らが貫いてきた形とは違う。貴乃花らをほうふつとさせる四股。稀勢の里が初めて見せる形だった。

 これまでの四股は独特だった。膝は90度に曲げたまま、地面へ突き刺すように下ろす。つま先を、腰より高く上げることはしなかった。「下半身が鍛えられない」と否定的な親方もいるが、当人はこだわりがあった。「昔の力士は、足を上げていなかったんです」。

 映像が残る17代小錦や、19代常陸山、20代梅ケ谷ら明治時代の歴代横綱は、膝を90度曲げた四股だった。それが次第に、足を上げる形へと変わった。奥が深く「正解」はないといわれる四股。自らの頭で体の使い方を考えて、たどり着いたのがこれまでの形だった。

 そうまでこだわってきた四股だからこそ、“改革”には並々ならぬ決意が込められていた。従来の踏み方の中に、足を高々と上げる形を何度も見せた。「いろんな意味があります」と意図はけむに巻いた。

 初場所で痛めた右足親指の影響もあって9勝にとどまった春場所。鶴竜には初優勝を許し、綱とりも先を越された。こだわりに変化を加えたのは、殻を破るためにほかならない。進化、できるか。【今村健人】

 ◆四股

 下半身を鍛える相撲の基本稽古の1つ。足を開いて腰を下ろした後、片足を軸にもう一方の足を体の側方に高く上げる。上げた足はつま先から、再び土俵に下ろす。この動作を交互に繰り返す。地中の邪気を払う意味も込められ、江戸時代から伝えられてきた。体幹が鍛えられ、多い力士は1日数百回踏む。相撲以外の競技でもトレーニングに用いられることが多い。考え方はさまざまで、横綱双葉山は高々と足を上げるというより、力まず自然に上げる動作で有名。