阪神のドラフト1位近本光司外野手(24=大阪ガス)が、単独の「居残り特走」に取り組んだ。自主性を重んじるキャンプ方針の中、首脳陣が指名して付きっきりで異例の個人レッスン。コラム「虎だ虎だ虎になれ!」で阪神を追う編集委員・高原寿夫が、その中身と意図、そこから見える矢野阪神の選手育成に迫った。

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キャンプ2日目。いい光景を見た。午後4時、選手が誰もいなくなったメイングラウンドに姿を見せたのは新人の近本。ボ~ッと見ていると面白いことをやり始めた。一塁からリード。スタートを切ったり、一塁に戻ったり。ヘッドコーチ・清水雅治、外野守備走塁コーチ・筒井壮、それに動作解析の相沢一幸がそれを見守り、相談する。

これは虎番記者に伝えないと…。そう思ったら2年目の真柴健がどこからともなく現れ、見ていた。何をしていたのか。「どうも帰塁についてチェックしたようです」。真柴はそう話す。隠すことでもないので練習後はみんな説明してくれた。

近本 盗塁や走塁のすごい人から話を聞いたときに皆さん、違うことを言われる。スタートだったり、走り方は人それぞれ。本当に合うものをしっかりと作っていけ、と。自分では課題点があるので、そこを克服していきたい。

清水 自分も走り屋だったのでこういう感じだよと。盗塁は、基本、スタートとスライディングしか教えられることはない。スタートが100%なので。

筒井 3日から走塁練習が始まるので予習しただけ。1歩目の速さが欠けていてはいけない。走り屋としても一流になってもらわないと。良い物を持っているし、伸びしろもある。改善できるようアドバイスした。彼は向上心があるので「ここをよくしたい」とか聞いてくれた。

首脳陣から指名して俊足が売りの選手をチェックし、近本自身も積極的に話を聞く。当たり前だが、戦力アップに真剣に取り組む姿勢を見たと思った。

清水とは昼間、キャンプの日程について話していた。今年のキャンプは3日動いて4日目を休む「3勤1休」をまず2度、繰り返す。昨年は4勤1休から始まったので少し楽かも。「去年最下位だったのでそんなんでエエのか?」。そんな声が聞こえてきそうなので聞いたのだ。

「そう言われるかもしれませんね。曜日の並びの問題でもあるんですけど。でも4勤にするとやはりキツいですから」。清水の答えはこうだった。金曜から始まり、観衆の多い土、日曜は練習日にするので自然、こういう日程になるのだが何より指揮官・矢野燿大の目指すものは自主性。スパルタではない。

さらに矢野が強調するのはどんな選手になる、なりたいのかをハッキリさせるという点だ。そういう面で全体練習後に行われたルーキーの個別練習。指揮官の方針をしっかりと示しているように思った。(敬称略)