元プロ仕込みのシュアな打撃が、拓大紅陵(千葉)に決勝点をもたらした。1-1の6回1死二塁。寺尾悠聖外野手(3年)は外角低めの直球を右前へはじき返した。勝ち越しの適時打に「自分はローボールヒッターなんで」と笑った。

 「低めを強く打て」。昨秋就任した元横浜田中一徳コーチ(33)から授かった金言だ。適性を見抜き、不調時は高めを振っていると指摘された。かつてPL学園で甲子園を沸かせ、ドラフト1位でプロ入りした男の助言は効果絶大だった。

 田中式メソッドは、学生スポーツに多い「敗者の美学」を語らない。「勝ちからしか学べないこともある。僕は教育者ではないので、勝負師として経験したことを伝えたい」と勝利に徹し、沢村史郎監督(49)の夏初陣を白星で飾った。

 延長17回に及ぶ横浜との甲子園準々決勝で、松坂大輔(現ソフトバンク)から4安打したのは17年前。「その頃に生まれた子たちとやれるのは縁を感じる。なんとか甲子園に行かせてやりたい」と“兄”の顔をのぞかせた。【鎌田良美】

 ◆田中一徳(たなか・かずのり)1981年(昭56)10月28日生まれ、兵庫・尼崎市出身。PL学園(大阪)で2年夏の甲子園に出場し、準々決勝の横浜戦では「1番左翼」で出場。99年のドラフト1位で横浜入団。プロ通算5年で341試合に出場し、打率2割2分9厘、1本塁打、13打点。06年に戦力外通告を受け、翌年は米独立リーグ。08年シーズンを最後に現役を引退した。