広島新庄が初戦突破を果たして、夏の甲子園で初勝利を飾った。エースの堀瑞輝投手(2年)が左ふくらはぎのけいれんを乗り越えて2失点で完投。打線も6回に勝ち越して、左腕を援護した。広島県勢は、この1勝で全国で6番目となる春夏通算200勝を達成した。

 試合終了の瞬間、全身の力が抜けた。最後の打者の右中間方向に伸びていく打球がセンターのグラブに収まったとき、堀は疲労困憊(こんぱい)だった。

 「9回は打者もコースも考えずに投げていた。打たれた瞬間は、危ないと思った。ホッとしました」

 2年生のエース左腕が2失点で完投。アクシデントを乗り越えて自分の仕事を果たした。

 8回から左足に違和感があった。1死から投ゴロをつかんだ時に、けいれんがあった。9回を前に、医者の手当てを受けてマウンドに上がった。勝ちたいという思いが最後まで心を奮い立たせた。計測した最速140キロが、その証しだった。遠目塚(とおめつか)捕手も「足がつった後は直球が伸びていた」と驚くほどだった。

 田口麗斗(現巨人)、山岡就也(現国学院大)という左腕の系譜を引き継ぐ。「力は田口、山岡が上だが、心臓の強さは堀の方」と迫田守昭監督(69)が話すほど、マウンド度胸は抜群だ。

 それでも本人の甲子園初登板の自己採点は辛口だった。100点満点で10点。「序盤から調子は良くなかった。最後は気持ちだけで投げていた」と明かすほどだった。

 左腕の粘りは、広島新庄と迫田監督に夏の甲子園初勝利を導くとともに、広島県勢の春夏通算200勝ももたらした。指揮官は「先輩たちがこれまでつくってくれた。新しいひとつの歴史になったと思う」と感慨深げに話していた。

 広島商の監督を退き、広島新庄に移って8年目。予期しない出来事もあった。「広島で、こんなに雪深い場所があるのかと思った。でも勉強と野球を両立することにひかれて、この学校に来た」と振り返る。

 教え子からも援軍があった。永川(広島)、田口の広島新庄OBからはポロシャツ、岩本(広島)、柳田(ソフトバンク)の広島商OBからはボールとバットの差し入れがあった。エースの試練を全員で乗り切ったナインが、多くの人に支えられて次の戦いに挑む。【中牟田康】