メジャーは昨今、コーチや指導者経験がほとんどない若い人材を監督に抜てきする傾向が強まっている。どのチームもデータ分析に大きく依存する戦い方をするようになり、若手の方がそうした最先端のものを受け入れる柔軟性があると考えられているのだろう。データ分析を重視するということはフロント主導で戦略を立てることも多くなるが、そういう意味でも若手監督の方が使いやすいというのもあるかもしれない。

 しかしその未経験若手監督抜てきにはやはりリスクも伴っていると、フィリーズのゲーブ・キャプラー新監督を見ていて思った。キャプラー監督といえば、現役だった05年に巨人の助っ人としてプレーしたが、日本の野球になじめず、打率1割5分3厘、3本塁打、6打点でわずか38試合に出場しただけで退団した。フィリーズ監督となった今年2月、日本で活躍できなかった理由について聞かれ「日本行きを決めた04年は、自分は若かった。あらゆる側面から物事を考え、判断することができなかった。日本や東京について夢のように思い描き、子どものように忍者に魅了される自分を考えていた。野球で成功することはあまり頭になかった」と答えている。以前にも「お金につられて日本に行ったのは間違いだった」などと話しており、あまり思慮深さが感じられなかった。

 そんなキャプラー氏がフィリーズの新監督に選ばれたのは、面談した候補者の中でも42歳と若く、データ活用に一番理解を示したことが大きな理由だったと伝えられている。チームは今季、期待の若手が成長し、トップFAの先発右腕アリエッタも獲得して戦える戦力が整っており、新監督にも大きな期待がかかった。

 ところがキャプラー監督は開幕から、ミスと受け取られても仕方がない“迷采配”を連発した。開幕戦でエース右腕ノラを5ー0とリードしている状況でわずか68球で降板させた後、継投に失敗して大逆転負け。ウオームアップをまったくしていない救援投手を登板させたこともあり、ファンはもちろん選手からも批判の声が上がっている。エース格のアリエッタは、もし少ない球数で降ろされそうになったら抵抗するかと聞かれ「もちろんだ。僕らは5日に1度マウンドに立つしかないので、まだ20球は投げられるという状態なら、そうしたい」と明言している。開幕から出場機会がもらえない選手からも早くも不満の声が複数上がっており、ニック・ウィリアムズ外野手は「コンピューターが打線を組んでいるのかもしれないね。それについては僕が言える立場ではないけれど」と話している。フィリーズの選手の中には「あの監督がいなくなってくれれば、僕らはうまくやっていける」と批判する者もいると伝えられており、チームは不穏な空気で充満。最先端のデータ偏重チームの意外なあやうさを見た気がする。


巨人時代のキャプラー監督
巨人時代のキャプラー監督