クリスマスツリーの前で大勢の日米メディアに対して質疑応答を行うボラス氏(2018年12月12日撮影)
クリスマスツリーの前で大勢の日米メディアに対して質疑応答を行うボラス氏(2018年12月12日撮影)

オフシーズン恒例の大イベント「ウインターミーティング」も終了し米国はホリデーシーズンが迫っているが、ブライス・ハーパー外野手(ナショナルズFA)やマニー・マチャド内野手(ドジャースFA)ら大物はいまだFA市場に残ったまま。今オフの市場は動きがスローだといわれている。

ウインターミーティングといえばかつては、そのオフのFAやトレード市場の最大の目玉選手が動き、歴史に残るような契約が成立する場だった。1998年にドジャースがケビン・ブラウン投手と7年1億500万ドルの契約を結びメジャー史上初の1億ドル選手が誕生したのもウインターミーティングの場。2000年にレンジャーズがアレックス・ロドリゲス内野手と当時の史上最高額となる10年2億5200万ドルの契約を結んだのも、2011年にカージナルスの顔だったアルバート・プホルス内野手がエンゼルスに移籍を決めたのも、ウインターミーティングの場だった。

しかし時代は変わり、GMらの交渉スタイルも変わった。かつては会場で直接会い、時にはバーで酒を酌み交わしながら交渉をするのが当たり前だったが、今は同じ会場にいても携帯のショートメールやメッセージアプリでやりとりをするのが主流で、普段の交渉と何ら変わらない。ブレーブスのアレックス・アンソポウロスGMによると「かつての交渉は、感触の良い話があればウインターミーティング前に最終段階まで詰め、会場に来て仕上げるものだった」そうだが、スマホ文化のせいで今は直接顔を合わせられるこの機会に決めようという空気が薄れている。むしろ多くの情報を交換しながら交渉の方向性を整理する場になっており、必然的に市場の動きが繰り下げになる。

野球ファンをときめかせるビッグ契約が起こりにくくなった分、ウインターミーティングは話題を提供するエンターテインメント性が強くなった。サービス精神旺盛なヤンキースのブライアン・キャッシュマンGMは毎日のように新聞の見出しになりそうなキャッチーなコメントを出し、特に「我々は、フル稼働のデススターである」という談話は大いにウケた。映画「スター・ウォーズ」に登場するデススターは帝国の最終決戦兵器を搭載した銀河系の巨大ステーションだが、ヤンキースのフロントがそこに集まり、何台もの最新機器に囲まれデータや情報を瞬時に分析しながら交渉する様子をイメージさせる秀逸なたとえだったからだ。

ところで今年のウインターミーティングはラスベガスのカジノ付きリゾートホテルで行われたため、カジノ独特のセキュリティーシステムのせいか携帯電話が非常につながりにくい状態だったという。相手に一生懸命話していて気づいたら通話が切れていたという現象も多発し、電話による交渉はストレスのたまる状況だった。市場がスローだったのはそのせいではないかというジョークも飛び交っていたそうだ。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

ナショナルズのブライス・ハーパー(2016年4月19日撮影=菅敏)
ナショナルズのブライス・ハーパー(2016年4月19日撮影=菅敏)