今季のメジャーは5月に月間最多本塁打記録を樹立したかと思えば翌6月にはそれを7本上回る1142本塁打で月間記録を再更新。このペースでいけば、17年にマークしたシーズン最多本塁打記録6105本を抜くことは間違いないだろうと予想されている。

これだけ本塁打が量産されると出てくるのが、飛ぶボールを使っているのでは、という臆測。今季も疑惑の声が上がっていたが、大リーグ機構はこれまでのようにそれを否定せず、ロブ・マンフレッド・コミッショナーは今季のボールが飛ぶことを認めたも同然の発言をしている。6月下旬に欧州初の公式戦レッドソックス-ヤンキース2連戦がロンドンで行われたときのことだ。コミッショナーは会見で「野球ボールは手作業で製造されているため、年ごとに違うものになることはある。今季のボールは空気抵抗が少なくなっており、本塁打が量産されている」と見解を述べた。

空気抵抗が少ない理由は、調査に当たった科学者の間で見解が分かれている。だが今年はこれまでよりボールの中の丸い芯を正確に中央に入れる技術が向上しており、そのため空気抵抗が減ったのではないかと指摘している専門家もいるという。米ウエブスポーツメディア「ジ・アスレチック」によると、宇宙物理学者がMLBの野球ボールを調査したところ、確かに今季はボール内部の構成と形状が違っており、飛ぶボールに変化していると指摘している。

飛ぶボールに変わったのが意図的なものかどうかは分からないが、マンフレッド・コミッショナーの発言から判断すると、少なくとも飛ぶボールを容認しているように聞こえる。ロンドンで行われた公式戦では、レッドソックスとヤンキース両チーム2試合合計65安打、50得点で、どちらも4時間20分を超える乱打戦となったが、同コミッショナーはロンドン開催の成功を喜び、試合時間の長さを問題視する発言はなかった。ファンやメディアの間では、ロンドンでは欧州のファン開拓のため、点が入って楽しめるようにと通常よりもさらに飛ぶボールが使われたのではないかとの臆測も出ていた。

マンフレッド・コミッショナーといえば就任以来、試合時間短縮を最優先事項とし、さまざまな新ルールを導入してきた。これまでマウンド訪問制限、イニングや投手交代間のインターバル時間制限、申告敬遠の導入などを実施したのは、すべて時短を目指してのことだ。しかしロンドンでの試合のことを考えると、実はさまざまな時短ルールは結局、試合時間自体を短くしたいというより、飛ぶボールによって試合時間が長くなる分を調整したいだけなのかもしれないと思えてくる。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

本塁打を放ち、2000打点を記録するエンゼルス・プホルスは、ポーズを決めて生還する(2019年5月9日撮影)
本塁打を放ち、2000打点を記録するエンゼルス・プホルスは、ポーズを決めて生還する(2019年5月9日撮影)