話題の大船渡高校の佐々木朗希投手について、米国メディアでもいくつか記事が出ている。

日本の高校野球についての米国報道といえば、楽天の安楽智大投手が済美高2年だった2013年に、大会5試合で計772球を投げたことが大きな話題になった。だが佐々木に関しては、USAトゥデー電子版が高校スポーツのページで「佐々木の高校には、できることなら彼に12回まで197球を投げさせることは避けてほしいが、彼はそれでも普段の球速を失わず、剛速球を投げられることを証明した」と書いているくらいで、安楽のときほど球数問題に言及しているメディアが少ない。

7月26日付のロサンゼルス・タイムズ電子版には「100マイル(約160・9キロ)超えを投げる日本のティーンエージャーを、ある者は次の大谷と呼ぶ」というタイトルで、佐々木を大きく特集しているが、佐々木がいかに注目の有望株であるかという点をクローズアップする内容になっていた。

調べてみると、米国の高校野球にも日本と似たようなジレンマが存在している。米国は投手を球数制限で守ろうという意識が日本より浸透しているものの、ルール作りをする側と現場では温度差がある。米国の球数制限は年齢層や州によって異なるが、高校生については17年に新ルールが適用され、テキサス州では1試合30球までなら連投が可能、31~45球なら中1日、46~65球なら中2日、66~85球なら中3日、86~110球なら中4日と、登板間隔を空けなければならないことになった。

ただし球数は審判や大会の主催者側が管理しているわけではなく、チームの監督、コーチが試合後に自チームの投手の球数をシートに記入する自己申告方式。球数をごまかしたことが後で発覚し、大会出場停止などの処分が下されることもある。

この新ルールが適用される前、15年にはワシントン州のダイラン・フォスナクトという高校生投手が1試合に194球を投げた例があったという。98年から12年までカブスなどでプレーしたケリー・ウッド元投手は、高校時代の95年に1日2試合に先発し計175球を投げたそうだ。米国でも監督、コーチといった現場の大人たちは、若い投手をケガから守るという意識を持ちながらも、勝たなければならないため、自分が板挟みになっていると感じている場合もある。

USAトゥデー系列のシチズンタイムズ電子版には、高校野球コーチの本音を紹介した記事があり、そこには「ウチのチームの投手層は薄いため、球数が制限されたら、試合の数を減らさないとやっていけない」と漏らすコメントがあった。試合数が減ることで、優秀な選手を伸ばす可能性も減ることを心配する声もある。また、球数制限によって、もう1度当たりたくない投手に対して球数を投げさせることが一番の目的になってしまい、野球自体が大きく変わったチームもあるという。

現場レベルでは球数制限を必ずしも歓迎していないという中で、それでも米国が球数制限を推進できるのは、第三者的機関などが介入していることも大きい。例えばテキサス州では、スポーツ教育を行う大学の組織が高校の野球指導者を集めた講習会などを行い、球数制限の推進を行っていた。それでも球数制限を徹底させるのは、なかなか大変のようだ。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)