ヤンキースがメジャーの月間最多本塁打記録を更新したり、メッツのピート・アロンソ内野手(24)がナ・リーグの新人本塁打記録を塗り替えたりと、今季は連日のように新たな本塁打記録が作られている。

メジャー全体のシーズン総本塁打数も最多記録を更新しそうなペースになっており「フライボール革命」時代の“打高”状態が続く。

だが当の打者たちは、あまり打高とは感じていないのかもしれないと、16年ナ・リーグMVPであるカブスのクリス・ブライアント外野手(27)のインタビューを読んで思った。8月中旬に掲載されたジ・アスレチックのインタビューで「完全にストライクゾーンを外れた球を振ってしまう。そんなときはいつも、何をやっているのだ僕は、何て球に手を出してしまったのか、どうして振ってしまったのか、何を考えていたのかと、必ず自己嫌悪に陥る」と明かしている。当たれば飛ぶ確率は高いものの、当たらなかったときの「やられた感」があまりにも大きいというのだ。

その原因は、投手が今こぞって重視している「ピッチトンネル」だ。

投手が球をリリースしてからできるだけ長い距離、つまりどれだけホームベースの手前まで、どの球種も同じ軌道で投げられるかが、ピッチトンネルの優劣を決め、優秀なほど相手打者に球種を見極められずにバットを振らせることができる。多くの投手がピッチトンネルの質を上げ、打者がとんでもない球を空振りすることが増えた。ブライアントも「今、多くの投手がピッチトンネルのことを口にしている。バックドアのツーシームを投げてきたら、次の球も同じようにいくとみせかけて逆にくる。そしてまたまったく同じ軌道で外にそれる球を投げてくる。もう脱帽するしかない」と話している。

打者のフライボール革命VS投手のピッチトンネルの戦いは、これまでにあまり目にしたことのない現象を生み出している。

例えばアストロズのエース右腕ジャスティン・バーランダーは現在、勝利数も防御率もリーグ2位、奪三振は同1位でサイ・ヤング賞争いの有力候補だが、被本塁打数もリーグ最多。過去にサイ・ヤング賞と被本塁打王に同時になった投手を調べると、71年にリーグ最多の29本塁打を浴びながら同賞を受賞したフレジー・ジェンキンス(カブス)が唯一いるものの、48年もさかのぼらなければ皆無なのだから、今季のバーランダーの成績は珍現象といっていい。

バーランダー自身は「僕はフライボールピッチャー。もしゴロピッチャーに変わろうとしてもうまくいかないと思う。だから自分が目指すのは、できる限り多くの空振りを奪うこと。今の野球もその方向へ向かっている」と話している。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

アストロズ・バーランダー(2019年6月5日撮影=菅敏)
アストロズ・バーランダー(2019年6月5日撮影=菅敏)