MLBの今季は、順調にいっても100試合程度の短縮シーズンになることがほぼ決まったが、新型コロナウイルス感染拡大による球界とその周辺の経済的ダメージは甚大なものになりそうだということも分かってきた。

まだ正式発表はされていないが米メディアの報道によると、今年のドラフト会議は、通常40巡目まで指名するところを5巡目までとするなど、大幅に縮小する見通しだという。しかも指名選手との契約金は通常なら契約時に支払われていたが、45%の金額が2年間の分割払いに変わる。これだけでも、球団が相当な緊縮財政策に向かっていることがうかがい知れる。

5月には球団職員の大量リストラが始まる可能性もうわさされており、26日付のUSAトゥデー電子版によると、米国の雇用規則で60日前に通知されるべき解雇通知をすでに受け取った職員もいるという。パートタイム従業員の休業補償として各球団が100万ドル(約1億500万円)を用意したと報道されていたが、球場の売店や飲食エリア等で働く従業員は派遣会社に所属している派遣スタッフであって球団から直接雇われていないため、補償は受けられない。26日付のボルティモア・サン電子版では、そうした派遣の従業員たちがオリオールズの経営者に補償の嘆願をしているという記事が出ていた。

野球記者として球場に通っていると、球場で働く従業員の人たちと日常的に接し、顔見知りになり、親しく言葉を交わす人も何人かできてくる。そこで常々感じていたのは、球場という「職場」の牧歌的な雰囲気だ。米大陸のようなゆったり具合で人々が働いており「これぞ古き良きアメリカ」と感じることが多い。

例えばヤンキースタジアムにはメディア専用エレベーターというものがあり、それに一般客が乗ることはなくメディア関係者と球団職員が使用しているのだが、そんなエレベーターの中にも必ず1人オペレーターがいる。その仕事は、エレベーターのボタンを押すことだ。エレベーターから記者席階に降りると、そこにも目の前にオペレーターが立っており、外のエレベーターボタンを押してくれる。球場に“出勤”すると必ずそのオペレーターのおじさんと会うのだが、いつもにこやかにあいさつや言葉をかけてくれ、癒やされる存在だ。

メッツがまだ旧球場シェイスタジアムを使用していた時代には、記者席で記者に報道資料を配布することだけが仕事のスタッフ、メディア食堂で食事をする人の手にスタンプを押すだけ(当時は食事代金を支払ったという証明に手の甲にスタンプが押されていた)が仕事のスタッフもいた。そのようなスタッフが存在するのは「余裕」の象徴だと思う。

今はそうした顔見知りのスタッフの顔を思い浮かべ、次にヤンキースタジアムを訪れたときにあのおじさんに会えるだろうかと、感傷的な気分になっている。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)