ファンサービスのつもりが裏目に出るという、珍しいタイプのブーイングがあった。18日のカージナルス-メッツ戦で、カ軍のトップ有望株メイシン・ウィン内野手(21)がメジャー初出場、初安打を放った。WBCでは日本代表として活躍したラーズ・ヌートバー外野手が負傷者リスト入りしたためメジャーに昇格。「全米で最も野球に詳しいファンがいる街」とも言われるセントルイスでは、20年ドラフト全体54番目で入団した金の卵に熱い視線が注がれていた。既にプレーオフ圏内から外れ、ファンの楽しみは来季への期待なのだ。

ウィンは9番遊撃でスタメン出場した。5回の第2打席で、三塁前へ当たり損ねのボテボテのゴロで内野安打を記録した。球場は大盛り上がりとなったが、事件はここで起きた。

三塁からの一塁送球は二塁方向へそれ、メッツの一塁手ピート・アロンソは倒れ込みながら、どうにか捕球した。起き上がると、タイムがかかり、審判から「ボールを交換する」と言われた。いつも通り、ファンサービスのため一塁側スタンドにボールを投げ入れた。だが、有望新人のプロ初安打のボールだけに、カ軍のベンチは大騒ぎになった。特に元巨人のマイコラスは激高したという。観客も黙っていない。アロンソが打席に立つ度に大ブーイング。さらにボールを捕球した女性ファンにも「返せ(Give it back)」を連呼した。ボールは6回、球場の職員によって回収された。ウィンのサイン入りボール、ユニホーム、帽子と交換する予定だという。

アロンソは悔いた。「ばかげて聞こえるかもしれませんが、脳がおかしかった。スタンドにボールを投げることで、彼の特別な瞬間が奪われてしまった。自分の初ヒットを振り返ると本当に申し訳ない」。アロンソは19年本塁打王&新人王で22年は打点王というスーパースターだ。ニューヨークポスト紙電子版によると、ウィンへのおわびとして1942年のテキーラとサイン入りバットを贈ったという。

ウィンは、一連の騒動を笑い飛ばした。初安打で一塁に到達後、アロンソに謝まられた。その後、アロンソが走者として二塁に来た際も、再び謝罪された。「かなり面白いと思った。特にボールを取り戻した後はね。聞いた時、ショートで笑わないように我慢しようとしていたんだ。彼女がボールを返してくれてうれしかった。ボールにサインをすることができて良かったよ」。

ウィンは騒動になったボールを自分で保管するつもりはないという。「みんなメジャーリーグの初ヒットや初三振を覚えていると思います。ボールを取り戻せて興奮している。次は初長打を打ちたい。そしたら母に初安打のボールを渡せるといい」。アロンソは次の試合でもブーイングを受ける羽目になったが、新人ウィンにとっては、貴重なテキーラとサイン入りバットが手に入るハッピーエンドとなった。【斎藤直樹】

(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「斎藤直樹のメジャーよもやま話」)