メジャーの公式戦も佳境に近づき、エンゼルス大谷翔平投手とヤンキースのアーロン・ジャッジ外野手の「MVP論争」が、着々と過熱しています。5日の時点で、54本塁打を放ち、1961年のロジャー・マリス(ヤンキース)が持つア・リーグ記録の61本を上回るペースで量産しているジャッジは、現状では65本塁打に届くとも予想されています。

その一方で、昨季MVPの大谷は、5日の2ホーマーで32本塁打まで積み上げただけでなく、投手として11勝を挙げ、すでに181奪三振をマーク。200奪三振だけでなく、メジャー史上初となる規定打席「502」と規定投球回数「162」のダブル到達も視界に入れています。

昨季、大谷がMVPに選出された際、満票だったことに異論を唱える声は皆無でした。対抗馬に挙げられていたウラジミール・ゲレロJr(ブルージェイズ)は、打率3割1分1厘、48本塁打、111打点と、3冠王に近い成績を残しました。それでも、大谷が成し遂げた「46本塁打&9勝」の二刀流へのインパクトは強烈で、他の追随を許すことなく、満場一致でMVPに選出されました。

成績や貢献度などのデータが細分化された近年は、印象面だけでなく、数値を基準に投票される傾向が強くなっています。その一方で、歴史的なペースで量産するジャッジと、極めて高いレベルで二刀流を維持する大谷を比較すること自体が、難しくなっているのも事実です。ヤンキースの地元ニューヨークのメディアなどでは、ポストシーズン進出をかけた戦いの中で結果を残すジャッジと、「消化試合」となってしまった大谷のチーム事情、つまり重圧の違いを指摘する声も聞かれます。

ただ、リーグMVPは、各リーグ本拠地の15地区から各2名の記者による投票で決められるため、単に大都市優位とは言い切れません。実際、スポーツ専門局「ESPN」でコメンテーターを務める大ベテランのティム・カークジャン記者が、「僕にはどちらかを選べない」と苦笑するほど、今季の投票がこれまでにないほど大接戦になることは確実視されています。数年前までであれば、昨季のゲレロ、今季のジャッジは間違いなくMVPに選出されていたはずです。

今季にしても、どちらが選ばれても不思議ではなく、もし「W受賞」となっても異論はないはずで、それほど、大谷の活躍は「規格外」とも言えます。一部では、大谷はMVPとは「別枠」で表彰すべきとの声が出るほどで、議論好きの米国では今後も話題を集めそうです。【四竈衛】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「四竈衛のメジャー徒然日記」)

今季54号本塁打を放ったヤンキース・ジャッジ(AP)
今季54号本塁打を放ったヤンキース・ジャッジ(AP)