阪神からポスティング制度を利用してメジャー移籍を目指していた藤浪晋太郎投手(28)が、アスレチックス入団を決めました。

米西海岸カリフォルニア州オークランドに本拠を置くアスレチックスといえば、昔から不人気で観客動員数が伸びず、財政難で苦闘しています。2000年代初頭には、ビリー・ビーンGMが低予算で強いチームを作る「マネーボール」で話題になりました。

町の治安も良好とはいえず、プロスポーツチームも2019年にNBAのゴールデンステート・ウォリアーズが対岸のサンフランシスコ、翌2020年にはNFLのレイダースがラスベガスへと次々に移転。アスレチックスも新球場建設問題で移転がささやかれています。

また、2010年オフには当時楽天からポスティング制度を利用し、大リーグ挑戦を目指した岩隈久志投手の独占交渉権を獲得。しかし、低予算球団だけにオファーの金額があまりにも低すぎて、契約交渉は決裂しました。日本選手に対してもぞんざいな扱いで、あまり良い印象がありません。

それでも、藤浪とは年俸325万ドル(約4億2300万円)で1年契約。大リーグ全30団中で最も年俸総額が低い台所事情ながら、チーム5番目に高い好条件です。しかも、他球団がリリーフとして興味を示したのに対し、最初から先発投手として評価。日系人や日本人観光客が多い大都市サンフランシスコの対岸という立地条件も考えると、最高の球団を選んだといえます。

ただし、昨年チームはクリス・バシット(現ブルージェイズ)、ショーン・マナイア(現ジャイアンツ)、フランキー・モンタス(現ヤンキース)らのエース級を次々に放出し、地区最下位に転落。勝率はア・リーグ最下位で、チーム再建の真っ最中です。

そのため、現ロースター40人中で、大リーグ登録年数が4年以上の投手は1人だけ。先発は1人もおらず、経験不足の若い投手ばかりです。先発ローテーション確定は左腕コール・アービン(28)、右腕ポール・ブラックバーン(29)の2人だけ。3番手候補は辛うじて右腕ジェームズ・カプリーリアン(28)しか名前は挙がらず、春季キャンプで残り2、3枠をざっと8人ぐらいで争うことになります。

言い換えれば、それだけ多くのチャンスがあり、毎年のようにベテランの復活や、若手がブレークするチームでもあります。最近では19年に初の2桁勝利を挙げたバシットや、元ドラフト1位で伸び悩みながらも昨季前半6勝でオールスターに初出場したブラックバーンがそうです。そういう意味では、阪神で苦しい時代もあった藤浪も、米国という全く異なる環境で本来の力を発揮する可能性が十分ありそうです。

また、同じア・リーグ西地区に高校時代のライバルだったエンゼルス大谷翔平投手(28)がいることも、大いに刺激となるはずです。3月30日のホーム開幕戦では、いきなりエンゼルスを迎えます。是が非でも、メジャーで開幕を迎えたいところです。

本拠地オークランドコロシアムの中堅後方には巨大スタンド、通称「マウントデービス」がそびえ立ちます。藤浪は高校時代、米スカウトの間で“日本一の投手”という意味を込めて、「マウントフジ(富士山)」と呼ばれていました。197センチの長身が投げる姿は絵になるでしょう。世界最高峰の舞台で、さらなる頂に向かって、アタックを続ける藤浪を応援したいと思います。【大リーグ研究家・福島良一】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「福島良一の大リーグIt's showtime!」)

「マウントデービス」がそびえ立つオークランドコロシアム(2022年撮影)
「マウントデービス」がそびえ立つオークランドコロシアム(2022年撮影)