グラウンドからでも、ダッグアウトからでもない。イチローは、大谷の5打席をベンチ裏のモニターを通して見守った。「雰囲気ありますよ、やっぱり。なんかあるなというのは、野球をやっている人間なら感じるでしょうね」。画面からでも、大谷を包む空気の違いを感じた。

 第1打席で三振したものの、その後は2安打。「対応能力でしょうね。全然合っていないように見えて最後の甘いところを仕留めるわけですから。開幕してからも、あの何日間であんな状況で。それをすっと出来る能力はなかなか持っていないですからね。それは大きな才能ですよね。100マイル投げるとか、誰よりも飛ばすことよりも実は大事な能力というか、そういうふうに見えますけどね」。同地区の宿敵とはいえ、打席ごとに適応していく後輩の姿は、頼もしく映った。

 前日、選手登録から外れ、会長付特別補佐に就任したことで、大谷との対戦はなくなった。それでも、試合前の練習中、大谷が駆け寄ってきたのを承知で、素知らぬそぶりでダッシュを始める「いたずら」を仕掛けて笑わせた。「ディー(ゴードン)のサングラスに(大谷の姿が)写っていたんですよ」。大谷をイジるイチローの姿が、ほほ笑ましかった。(シアトル=四竈衛)