選手のプレーを連続写真で分析する「解体新書」。今回は日本ハムの新助っ人、王柏融外野手(25=台湾・ラミゴ)を和田一浩氏(46=日刊スポーツ評論家)が解説した。その打撃には、台湾で打率4割以上を2度もマークし「大王」と呼ばれた根拠が、随所に詰まっていた。

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台湾のプロ野球が、どれぐらいのレベルなのかは分からない。それでも王は長いシーズンを通して、2度も4割以上をマーク。タフな体だけでなく、それなりの技術が伴っていなければマークできない。打撃フォームを見てみると、高打率を残せる技術的な根拠が詰まっている。

構えている(1)を見ると、スタンスは広めで、体の重心はほぼ真ん中。(2)で右足を上げ、上がりきる(3)で軸足に体重を乗せているが、頭の中心からお尻の中心までの軸が、地面に対して垂直のまま。そして(4)から右足を踏み込んでいくのだが、右足が地面に着地した(5)でも、体の軸はほとんどブレていない。

ここまでで(1)と(6)のスタンス幅を比べてほしい。しっかり踏み込んだ時点、(6)との比較だが、腰の位置とスタンスの幅がほぼ同じ位置に収まっている。構えた時点でスタンスが広いのは、踏み込んだ時でも同じ幅にしたいからだろう。多くの打者は後ろ足の方に重心の比重を高くして構えるが、スタンス幅だけでなく、重心の位置も構えた形と同じように再現したいからだと思う。打ちにいくときに、頭が投手側に突っ込んでいくのは絶対にダメ。構えそのものはやや硬さを感じるが、再現性を重視して頭から突っ込まないようにするための“硬さ”だと感じられる。

右投げ左打ちの“難しさ”もうかがえる。写真だと分かりづらいが、トップの形(5と6)が分かりづらい。これは利き手が後ろにないため、しっかりした形を作りづらくなるから。インパクトを迎える前の(7)でも、左足が内側に折れるタイミングも若干だが早い。これも軸足が利き足でないから我慢できる時間が短くなる。ここが我慢できると、左の足の付け根に力がたまり、もっと強い打球が打てる。ただ、リードする右腕の使い方は完璧。内角よりの甘い直球をバックスクリーン左横に本塁打したが、(8)では右腕が伸びきっておらず、左腕で打球の飛ぶ方向へ押し込むように使えている。ヘッドをこねるように使っていないから、(9)のフォロースルーも大きく取れる。

本塁打になったのは風の影響が強いが、打球にいいスピンがかけられていた。ヘッドをこねるように使っていると、打球はドライブがかったり、ゴロになってしまう。しかし、バックスクリーン方向に若干のスライス回転がかかった打球を打てるのは、バットが内側から出ている証拠。コンパクトなスイングでも長打率が高いのは、打球を上げられるスイング軌道を実践できるからだろう。

(10)以降は少し状態が前に突っ込み気味になるが、インパクト後なので問題なし。それより、左手を離さずに最後までスイングできているのが素晴らしい。右投げ左打ちは利き手でない後ろの手を離すタイプが多いが、そういう癖があるとグリップが体から離れやすくなる。もちろん、打ったコースや球種によって、後ろの手を離す場合もあるが、右投げ左打ち特有の“習性”が少ない打ち方ができている。

王の最大の特徴は、構えてからインパクト直後の(8)まで、体の軸が地面と垂直に回っているところ。パワーヒッターなら、インパクトした形を横から見ると「人」の字のような形になるが、王は「人」と「入」の中間。あまり体重移動をせず、回転だけで打っていて力感がないのに打球が飛ぶのは能力がある証し。おそらく「強い打球を打つ」という意識より「正確にバットの芯に当てれば強い打球になる」という意識で打っているのだと思う。

「本塁打の打ち損じがヒット」ではなく、あくまでも「ヒットの延長が本塁打」というタイプ。日本では本塁打は減るだろうが、アベレージヒッターとしての活躍は期待できる。(日刊スポーツ評論家)

◆王柏融(ワン・ボーロン)1993年9月9日、台湾・屏東県生まれ。中国文化大在学中の14年にU21ワールドカップ優勝に貢献。15年ドラフト1位でラミゴ入団。16年はリーグ初の200安打、歴代最高の打率4割1分4厘、29本塁打、105打点、24盗塁をマークし、MVPなど6冠。17年は打撃3冠王で2年連続MVP。15年プレミア12、17年アジアCS台湾代表。182センチ、85キロ。右投げ左打ち。